裏腹、恋してる (ページ30)

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side A

着替えてすぐに拓馬くんの病室に向かった。扉を開けると、冴島さんが体温を測っているところだった。

「拓馬くん、血圧も安定してますし、体温も平熱です」

「ありがとうございます。今日中に意識戻るといいんですが…」

「そうですね。ご両親は休憩室で休まれています」

冴島さんはそう言うと他の患者さんの方へ向かう。

血圧などバイタルを確認し、ファイルに記入して行く。

「拓馬くん、今日はいい天気だね。散歩日和だなあ」

体温は36度か。昨日出血のせいで下がっていた体温も上がっている。いいことだ。

「拓馬くん、ちょっとごめんね」

ゆっくりと掛けられたタオルをめくったが、体の状態も悪くない。酸素濃度も問題なし。

よし、大丈夫だな。次の患者さんの所に行くか。

ファイルを閉じた時、何か違和感を感じた。

「ずれてる？」

枕がズレていた。誰かが動かすわけもない。

まさか。

「拓馬くん、お姉さんの声聞こえてないよね？」

拓馬くんの腕に触れると少しビクつく指。

これ、完全に起きてる。

起きてるのに、寝たふり、してるんだ。

「…わかった。良いよ、好きなだけ寝てて。暇になったら目を開けてみてもいいし、嫌になったら閉じてもいい。

お父さんとお母さんには内緒にしておくから」

そう言うと、うっすらと目を開ける拓馬くん。

ああ、本当に嫌なんだ。何もかもが。

「ありがとう、先生」

何とか唇を動かして伝える声は酸素マスクに遮られてほとんど聞こえない。

「でも、どうしてたすけたの？」

この言葉にどうしようもなく答えられなかった。拓馬くんのタオルケットを直して点滴の量を確認した。

暫く悩んだ末に、私はまだ、この病院のほとんどの人に伝えていない自分の事実を話すことを、そっと決めた。

「私ね、ーーーーーーー」

「拓馬くんが起きたことは、あの時俺も拓馬くんの味方だよって言ってくれた先生に言ってもいい？」

「…わかった」

「じゃあ、またお昼に来るね」

拓馬くんは小さく手を振ってくれた。静かに扉を閉める。

やっぱり私、感情移入しすぎかな…