裏腹、恋してる (ページ26)

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side A
拓馬くんのご両親が拓馬くんを見つめる。優しいご両親だった。

今年に入ってから拓馬くんの明るさが無くなってしまったこと。

原因を言ってくれない怪我が増えたこと。

学校側は本人から転んだと聞いたということ。

全て総合して、藤川先生といじめによる突き飛ばしだという結論を出した。あとは警察に連絡して、拓馬くんの回復を待つしかない。

名取先生が静かに病室から出て行った。

私も一礼して病室を出る。

そして、そのまま座り込んでしまった。

名取先生はそんな私の隣に立つ。

「泣きたいなら、泣けばいいじゃん。ほら、この時間に患者なんかほぼ通らないしさ」

くしゃりと撫でられた頭。

うずくまり顔をそっと隠した。

「これからこんなこと、たくさんありますよね。泣いてなんからんないのに」

「俺は羨ましい、って思うけど？」

「え？」

名取先生の顔を見ると、不器用な顔をして、また口を開く。

「前に緋山先生から言われたことがあってさ。もっと患者を思えって」

「ちょっとわかります」

「おい。…だって怖くないわけ？患者に思い入れして、死んだら毎回毎回罪悪感で押しつぶされそうになる。

今の時代、医者が訴えられることも珍しくない。俺は正直やってらんねぇよ」

名取先生…

普段見ないような表情を見せる名取先生。

「でも、名取先生は十分優しいと思いますよ」

「は？人の話聞いてたお前」

「本当に思い入れがない人が、ここまで救命やれてないと思うので」

名取先生は面食らったように視線を迷わせた。

この名取先生になら、思ってること吐き出せる。そう思った。

「…15歳なんて、そこから5年生きるだけでも長くて、辛くて、楽しくて、いっぱい笑えるのにって思っちゃったんです。

多分普通に暮らしてたらすごく楽しかったはずなのに。」

「中学生かぁ。確かに友達もたくさんできて楽しい時期だった気がする」

「名取先生はどんな学生生活してたんですか？」

「俺？俺はフツーだよ。超平凡に暮らしてた。本当はもっと遊びたかったけどさ、親が厳しかった」

「名門大学の医学部ですもんね」

「ちょっとバカにしてるよな？」

なぜかわからない。なぜかはわからないけど、その日の夜たくさんの話を名取先生とした。

相変わらず名取先生とウマが合わないことと、名取先生がエリートだということだけはよくわかった。