裏腹、恋してる (ページ24)

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side A

やれることはやった。まさにその状態だ。

手袋を外しゴミ箱に捨てる。拓馬くんを担当した医師、ナースともに表情は暗い。

…藤川先生を除いて。

「いやあ、桜田よく気付いたな、拓馬くんがしゃべってるの」

「いえ、動揺してしまって迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

「何、謝ることじゃないよ。あそこで桜田が声かけてなかったら拓馬くんは諦めて意識を失ってたかもしれない。危なかった」

藤川先生が私の肩を優しく叩いた。

「藤川先生、拓馬くんのご両親が来られました」

「お、来たかー。名取、桜田も。行こう」

なんて事ない振りをする名取先生が「僕もですか？」と嫌そうな顔をした。

「私も役立たずでしたし、」

「役に立ったかとか、何をしてたかとか関係ない。治療に携わったのなら最後まで責任を持ってやり通すのが医師のすべきことだろ？」

名取先生の方を見ると、渋々といった形で藤川先生の後ろについた。虐待してるかもしれない親なんて怖いよなぁ。

とは思いつつも藤川についていく。名取先生がこっちを一瞥した後に呟いた。

「はぁ…こういうの、踏み入りすぎないのが一番だと思ってるけど。桜田は拓馬くんの味方するって言ったんだろ。

何かあったら桜田の味方くらいにはなってやるから」

え。

今、なんて…

「え？名取先生って、そういうこと言えるんですね」

「俺をなんだと思ってるんですか？お前の不安そうな感じ、顔に滲み出てて、見てる方も不安になる」

めんどくさい新人だなぁ、と呟く名取先生は気怠げだ。

「お二人さーん？俺のこと忘れてない？」

げ。

藤川先生の一言に、顔を見るとニヤケが止まらない様子。

「やっぱり二人いい感じなんじゃないか～。なんだよう、そうなら言ってくれてもいいのに」

「僕なんか藤川先生の身に余りますから」

「わ、私の身にも余ります」

「そう？そうかな？やっぱ新婚だからなぁ～！まあいつでも相談してくれよ！」

上機嫌に名取先生の背中を押す藤川先生。名取先生の顔は見ないことにした。