裏腹、恋してる (ページ23)

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side 名取

ファーストしながら、急に動きを止めた桜田の方を見る。

顔は真っ青で、拓馬くんの顔をじっと見つめていた。

「おいおいまじかこれ。階段から落ちてもこんな傷はできないぞ」

拓馬くんの体にはまあ上手いこと服の上からは見えないように痣や擦り傷がついていた。

「いじめか虐待、どっちですかね」

桜田が目に涙を溜めながら首を横に振っている。そっと拓馬くんの手を握っていた。

「本当に学校の階段から落ちたんだろうな、拓馬くんよ」

藤川先生が処置をしながら言った。誰もが思っていることだ。

「拓馬くん、絶望することがあるのなら、お姉さんが守ってあげる。約束するよ。」

桜田が呟いた言葉に、拓馬くんが何を望んでいるのか、その場にいる誰しもが察した。

「大丈夫、私は拓馬くんの味方だよ。何があっても守ってあげるから。だから、まだ諦めないで。」

「おー、桜田カッコいいね。じゃあ俺も拓馬くんの味方になってあげよう。こんな頼もしい味方いないぞ？」

藤川先生も拓馬くんに力強くそう言った。

桜田は拓馬くんの手を握り続けながら処置をする。

「もう少し頑張ってくれよー、拓馬くん」

「血圧下がってます！」

やはり肺損傷だ。肋骨のカケラが肺に刺さってるかもしれない。

「名取、そっちはどう？折れてる？」

「大丈夫です、こっちは肺に穴も開いてません」

「了解。こっち来てくれる？手伝って欲しい」

「わかりました」

桜田の様子を伺うと、顔は大分動揺してるが処置は落ち着いている。

きちんと数値を確認しつつ薬剤を投与していた。

「桜田もうちょい入れれる？」

「わかりました！」

藤川先生の指示を聞きつつ、自分でもできることをする。

俺はふと、思った。

医者を神様だと思う人もいる。

けど、この子にとっては。

つらい現実から逃げさせてくれない、通せんぼをしてくる悪魔なんじゃないか。

それでもいいや。俺は患者を助けよう。

俺は医者だから。