裏腹、恋してる (ページ21)

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午後になり、橘先生に名取先生と二人セットでICUに呼ばれた。

「来栖さんがお礼を言いたいそうだ。」

「あーなるほど。優しいおばあちゃんですね」

「かなり危険な状態だったんだ、説明したら二人がいて良かったとおっしゃっていた」

橘先生が立ち止まり振り返る。

「お前ら二人は神様だと言っていたよ」

かみさま。

その四文字に私は素直に喜ぶことはできない。

名取先生も同じようだった。

「医者は神じゃありませんよ」

「わかってる。でも来栖さんにとってはそうなんだよ。鹿児島の小さな島で生まれた人だ。そう考えてもおかしくはない」

「あ、来栖さんってやっぱり島生まれの方だったんですね。」

橘先生が頷いてまた歩き出す。

「ああ。孫のためにこっちに住み出したらしい。

来栖さん、連れてきましたよ。この二人です。」

来栖さんはこちらを見て柔らかく笑いかけてくれた。

無い力を振り絞って手を合わせてくる。

「先程は助けて下さりありがとうございました。先生は命の恩人です」

橘先生はじゃあ僕は別の患者のところに、と言ってICUを出て行ってしまった。

名取先生が私の背中を押してくる。

「そんな、私達はたまたま居合わせただけです」

「いいえ、先生たちがいらっしゃらなければもう孫の顔は見れなかったんです。神様ですよ」

「でも実際治療したのは橘先生です。私達はまだ未熟で、神様なんて言われるような人間じゃありません」

来栖さんは私の言葉を聞いても首を横に振り続けた。

「未熟なんか関係ありませんよ。今朝、お腹が急に痛くなって、不安でたまりませんでした。先生方はまだ出勤前だったんでしょう？それでもすぐに寄り添ってくれて、他の先生が来られるまできちんと、自信を持って診てくださいました。

それだけで安心できたんですよ」

また手を合わせて頭を下げる来栖さん。

当たり前のことをしただけなのに。

「なら、よかったです」

名取先生がそう言って、口を開いた。

「そう言われるから、助けたいと思える医者もいます。僕は、あんまりそういうタイプじゃないけど」

来栖さんがニコリと笑い頷く。

刹那、名取先生と私の携帯が鳴った。

「はい救命センター桜田です」

『救急搬送15歳少年学校の階段から落ちて胸部に強い衝撃を受け、意識レベル3桁』

「了解しました。来栖さんまた来ますね！」

名取先生が先に走っていく。急いで追いかけた。