裏腹、恋してる (ページ20)

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「動かしますねー」

「ここに通院してた来栖サチさん64歳、去年脳梗塞を起こしており、糖尿病も患ってます」

看護師の情報を聞きながら首を傾げた。脳梗塞に、糖尿病…って、どうして入院じゃなくて通院？

「糖尿病なら急性合併症ですかね」

「腹痛ならケトアシドーシス？」

救命に運び込むと、先ほど聞いた救急車の患者の手当てが進んでいた。

橘先生がおお来たか、と来栖さんの様子を見る。

「二人揃って出勤？仲良しでいいね～」

とか言い出した後に雪村さんも確認したようだ。

「三人で出勤かあ、いいねえ」

「違います、出勤時間が被っただけです。何なら私名取先生に無視されましたよ」

「名取無視はダメでしょ、先にCT運んで」

名取先生ははい、とだけ答えてCTへ運び出す。

「なんとか回復してきましたね」

ようやく着替えを終えた私達は早速書類仕事が待っていた。現場報告だ。

「ああ。脳梗塞起こして糖尿病起こしてんのにすごい生命力だよ」

にしてもさ～、と珍しく話題をつなげる名取先生。

「さっきのナース。あんなんでよくナースやれてるよね」

「…まあ、初めてだとパニックになりますよ。特に現場慣れしてないと。私も最初はあんな感じでした」

「へえ。桜田もあんな感じだった？」

あ、雪村さんと目があった。が、すぐにそらされる。

「はい。最初はドクターカーのスピードにビビったりしてましたよ」

「そのビビる桜田から指導したら面白かったのに」

「いやです、最初の指導員がこんなフェローだったら」

「あーはいはい悪かったですねこんなフェローで」

書類を書き終えた名取先生が私のおでこを指で小突いて立ち上がった。書類をファイルに入れると、これお願いします、と冴島さんに渡している。

私も早く終わらせないと。