裏腹、恋してる (ページ18)

今日:13 hit、昨日:16 hit、合計:207,622 hit

17 ページ18

橘先生が受話器を置いた。

「タクシードライバーも意識を取り戻したそうだ。すぐに蘇生を始めてくれた一般市民と、大学病院が近くにあったから、両方の命が救えたな」

橘先生の言葉に名取先生が心底安心した顔をしたが、すぐにいつもの気にしてない素ぶりに戻った。この人わかりやすいな。

「柴田さんは？」

「とりあえず卵巣は摘出しましたが、他の臓器にも影響が考えられます。CTの結果を見ないとなんとも…」

緋山先生がそう答えた後にこちらを見た。

「でも、傷の応急処置も的確でしたし、処置を短時間で終えたため母体へのダメージは最小限に抑えられていた。正直、ちょっと怖いぐらいには素晴らしかったと思います」

私はつい、ポカンとしてしまった。

緋山先生の顔にわかりやすい怒りマークが浮かぶ。

「ちょっと、桜井アンタに言ってるんだけど。上司からの褒め言葉無視？」

「い、いや…研修医になって初めて褒められたので、どうすればいいのかわからなくなって…あと桜田です」

「はぁ？初めて？その嘘は苦しいわ」

ほんとに初めてなんだけどな、信じてもらえなそうだしいいや。

「ありがとうございます。それと、信じてくれた橘先生、白石先生、名取先生も。ありがとうございました」

名取先生が「え、俺も？」と自分を指差す。

白石先生がその様子を見て苦笑い。

「今日桜田先生と一緒に治療したのは、正真正銘名取先生でしょ」

「あーまぁそうですけど。俺はただ言われて仕事しただけなんで」

白石先生が首を横に振った。

「トリアージっていうのは、助けられる人を優先するってこと。柴田さんの状態はとても難しいものだった。でも、桜田先生なら助けられると思ったから、ヘリを柴田さんに譲った。そうでしょ？」

「まぁ、近くに病院もありましたし。総合して判断しただけです」

「それが信じたってことだよ。名取先生が一番、桜田先生のことを信じてたんじゃない？」

そう言うと、ICUの方へ行ってしまった白石先生。

「あー、まぁ、うん。信じたかも、ちょっとだけ」

「名取先生、素直じゃないですね」

「うるせえ、ホラかりんちゃんICUに連れて行かないと」

「はーい」

まだ少し照れてる名取先生の横に並んで、笑いかける。

いつのまにか夕日になっていた太陽が、私たちを照らした。