裏腹、恋してる (ページ16)

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side 名取

到着してすぐに様子を見ると、まだ心肺停止状態だった。

「代わります！AEDお願いしまーす」

「わかりました、お願いします！」

救急隊に代わり心臓マッサージを行う。

これは開胸しないとかな…

「開胸心臓マッサージします、桜田先生、名取だけど聞こえる？」

無線で桜田に状況確認をしつつ、開胸の準備を始めた。

『はい、名取先生、子宮外妊娠の対応の場合、どの先生が専門になりますか』

は？コイツ何言って…

「緋山先生だけど…ほんとに言ってる？」

『まだ外傷による出血の有無はわかりませんが、柴田さん本人から子宮外妊娠をしていると伝えられました』

嘘だろこんな時に…！

救急隊の人に「開胸します」と伝えながら、頭をフル回転させた。

「緋山先生と連絡取れそう？」

『取れます』

くそ、トリアージどうすればいい。子宮外妊娠の上に外傷起因の腹腔内出血なら急いで病院に送らないと手遅れになる。

でもこっちも簡単に心臓動いてくれないだろうし…

「名取先生？どうかしたんですか？」

「ああいや…」

開胸して中に手を入れる。心臓を動かして、どうすべきか考えた。

『名取先生、こっち緊急オペします』

「はぁ？何言ってんの？」

『じゃないと助かりません！一歳の赤ちゃんをこれから誰が一番近くで育てるんですか』

あぁもう。それで母親に死なれて裁判にでもなったらどうするつもりなんだよ…！

「桜田一人でそんなことできるわけ？お前ふつか…」

やっべ、救急隊の人が俺の方を振り返る。2日目なんて言ったら現場は混乱するだろう。

『前の病院でオペに同行したことがあります。緋山先生もそれしかないって。

頑張りましょう、名取先生』

がんばろ。俺は確かにそう言った。でもそれは、それなりにがんばろって意味だ。

そんなお前が思ってるような熱い意味じゃなかったのに。

なんでどいつもこいつもそんな患者に熱くなるんだよ。

「名取先生！心拍戻りました！」

「よし。しばらくしたらメイロン投与してください。…桜田、今どんな感じ？」

『開腹しようとしてるところですが』

「わかった。血圧は？」

『50、…どんどん下がって来てます』

救急隊が「バイタル安定してきました！」と言い、救急車の緊張感が少し緩む。

…やるしかない、か。