裏腹、恋してる (ページ15)

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「柴田さん、翔北救命センターの桜田です、ちょっとお腹見せてくださいねー」

お母さんは見たところ外傷は無さそうだ。触診して見るとお母さんが痛そうに顔をしかめる。

「あの先生、子供が心配で、まだ一歳になったばかりなんです…！タクシー後ろから突っ込んで来て、子供の方が衝撃強かったはずです！！助けて先生！！」

「柴田さん大丈夫ですから動かないでくださいね、大丈夫、落ち着いてください」

「先生…！」

触診していた右腕が柴田さんの手で掴まれた。

「お願いします！赤ちゃん先に見てください！」

冴島さんが「大丈夫ですよー、腕離してくださいね」と言うが聞いてくれない。

「…赤ちゃんは今どこにいるんですか？」

「あっちの救急車です、事故にあってから動けなくて、まだ様子見てなくて！！」

冴島さんを見ると頷いてくれた。

「ルート確保しておきます」

「わかりました、少し赤ちゃんの様子を見て来ます。安心してくださいね」

ようやく離してくれた腕。ほんのりと赤い痣になっていた。愛情の跡だ、ちゃんと赤ちゃんをみないと。

赤ちゃんの乗る救急車に入ると、大きな泣き声が響いていた。

あらら、こんだけ泣いてるなら元気かな。

「大丈夫だよ～、ちょっとだけごめんね」

赤ちゃんの触診を行い、様子を伺う。大丈夫そうだ。

「柴田かりんちゃん一歳です。ベビーシートに乗せていたので衝撃にも耐えれたみたいなんですが、泣きやまないせいで若干酸欠になって来ていて」

「わかりました。お母さんの容態が安定して来たらすぐに連れて来てください。お母さんといた方が絶対に安心できます」

かりんちゃんを救急隊に預けてお母さんの方へ走る。

「桜田先生！柴田さんの意識レベル、血圧急に落ちて来ました！」

「まずい、腹腔内出血かもしれないです。柴田さん、かりんちゃん大丈夫でしたよー、お母さんいなくて不安だったから早く元気になりましょうね」

「先生…」

「しんどいけど意識保っててくださいね、薬のアレルギーとかありますか？」

「ありません…でも、」

柴田さんが私の腕をまた掴んで来た。柴田さんの目の端から涙が溢れている。

かりんちゃんは無事なのに、どうして、

「病院、行くつもりだったんです…元々お腹いたくて…」

「柴田さん！？しっかりしてください！」

「妊娠、してるんです、」

妊娠、してる？

「子宮外で、」

その言葉は冷水のように私たちを冷やす言葉だった。