裏腹、恋してる (ページ12)

今日:8 hit、昨日:3 hit、合計:207,601 hit

11 ページ12

side A

次の日の朝、私はICUに向かった。昨日の漁師の患者さんが急変したと聞いたからだ。

また発作が出たのだろう。はやく手術しないとどんどん危険な状態になる。

ICUに入ると緋山先生がいた。

「おはようございます」

「ああ、おはよ」

昨日の当直は緋山先生だったんだっけ。眠たそうに大きなあくびをしたあとに患者さんの健康状態を確かめていた。

「…桜井だっけ、名前」

「桜田です」

「ああそうだ。ごめんごめん。で、桜田。アンタ今日ヘリ担ね」

緋山先生がさらりと伝えてきた。え、今日！？

「え、昨日は名取先生と緋山先生だって聞きましたけど」

「だってアンタ病院にいてもそんなに学ぶことないでしょ。前の病院とおんなじことしてるだけ」

「でもヘリに関してはまだ何も教えてもらってないです」

「だから飛ぶのよ。大丈夫？思ったより肝座ってないね桜井」

桜田なんだけどなあ、、、ってかそこじゃない。

「じゃあ、緋山先生とヘリ担当ってことですよね。お願いします」

「いや違う。違わないかもだけど」

「え？」

緋山先生は患者さんに笑いかけた後にこちらを真剣な眼差しで貫く。

まっすぐな目だ。

「よっぽどのことが無ければ、名取とアンタ。」

「えぇ！！？」

危うく持ってるバインダーを落とすところだった。息を呑む。

「そんな、「できませーん、なんて言うためにここに来た訳じゃないわよね」

私の言葉を遮るように。言わせるものかと緋山先生は言った。

フェローだけのヘリ…

失敗したら患者さんの命だけじゃない。

信じてくれたシニアチームにも迷惑をかける。

名取先生にだってーー

「前に進むために、翔北に来ました」

「そう、それ。桜井の口からそういうのが聞きたかった」

「桜田です」

緋山先生は私の肩に手を置いて去っていった。