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もう何度も訪れている七海の部屋は、夜だというだけで不思議といつもとちがって見えた。いつもは視界に入る程度のベッドがやけに目に飛び入ってくる。できるだけ意識しないように入った。
「今食べますか」
お土産で買ってきてくれたのはカヌレだと言う。私は首を振った。夜食べるには少し重たい。七海が出しかけたお菓子をしまって隅に置く。その間無言で、その沈黙がいつもと違うように感じられてどうしていいのかわからなかった。
居心地悪く収まっている私の視界に七海の手が入って、顔を上げると思いの外近くに彼の端正な顔があって大袈裟に心臓が跳ねる。
「……キスしてもいいですか」
細く見えて以外とゴツゴツとした手が頬に添えられて目を閉じる。七海の手が冷たい。それほど私の頬が熱いのだと思う。しっとりと薄い唇が重なって、しばらくして離れる。それからもう一回重なって、今度は舐めたり食んだりした後に遠慮がちに口内に舌が侵入して、体の熱が上がっていく。唇が離れるときには、私は何がなんだかでぎゅっと七海にしがみついていた。
「……触れても」
七海の綺麗な翡翠が、無機質な蛍光灯を反射して鈍く燃えているように見えた。あつい。彼の目に、明らかな熱が籠もっている。
頷くと体が浮いて、すぐそばのベッドに下ろされる。何となく予想はしていたけど、やっぱりそういうことなんだ。七海でもそういうことをしたいと思うんだ。私を求めてくれる喜びと、逃げ出したいような恥ずかしさと。私は妙な気持ちになった。
「嫌だったら殴ってでも逃げろ」
「お菓子は、口実?」
「……もう黙ってください」
七海が覆い被さる。私はぎこちなく彼の首に腕を回して身を委ねた。
七海はとても丁寧で、優しかった。けれど結局入らなくて泣いてしまった。私が泣き出した途端、七海は一瞬で顔を真っ青にして身なりを整えさせて涙を拭った。ショックで泣きじゃくる私を寝付くまで抱きしめてくれた。驚いたけど、七海が求めてくれて、途中で中断しても文句一つ言わずに慰めてくれたことが嬉しかった。けれどそれらを言う前に寝落ちてしまった。
翌朝七海に揺り起こされて眠い目を擦りながら起きる。私は寝起きを見られたくなくて顔を伏せた。
「体の調子はどうですか」
「大丈夫だよ。……昨日は寝ちゃってごめんね」
「それは別に……いいんですが……」
「ごめんもう行くね。朝任務で」
「……部屋まで送ります」
「ううん、平気」
七海は何か言いたそうだったけど、何より寝起きだし、何だか恥ずかしいしで早く部屋から出たかった。七海が青い顔で不安げに見ていたことにも、気づかずに。
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相沢(プロフ) - Yukiさん» コメントありがとうございます‼️エーーーーーンヤッターーーめっっっっっちゃうれぴーです!!!!ワッ受験生仲間〜!!毎日死にそうになりますが頑張って生き延びましょ〜!!!❤️🔥レッツ限界! (5月26日 23時) (レス) id: 95aead40e8 (このIDを非表示/違反報告)
Yuki(プロフ) - めっっっっちゃ楽しみにしてます…自分も受験生です死にそうです一緒に頑張りましょ🥺 (5月25日 21時) (レス) @page6 id: 4a658d8cff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:相沢 | 作成日時:2023年5月14日 19時