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まさか付き合ってからの方が辛くなるなんて思わなかった。夏油さんのことが好きなままでもいいと言った言葉に嘘はないが、それはそのうち私のことを好きになってほしいという意味を内包していたからだ。どうして好きで好きで堪らない人が他の男に心を奪われているさまを、指を咥えて見ていなければならないのだろう。
たしかに彼女との距離は確実に埋まっているのに、間には絶対に夏油さんがいた。無意識だろうが、私と話していても夏油さんが現れると彼女の視線が一瞬動揺する。その一瞬を見逃せてしまえるくらいの想いならよかったのに。
夏油さんに交際を宣言したのは他でもなく独占欲からだった。背後から聞こえた声に、困惑と、若干の非難が含まれていることに気づいて苦しかった。ああこのひとはまだ夏油さんが好きなんだと。
「……戻りますか?」
「ごめん……もう少し一緒にいたい……」
「……あなたさえよければ」
夏油さんによってつけられた傷を癒すのは私で、身代わりのような役割にいつも身を裂くような思いだった。けれど私と話しているときに見せる、安心した表情は好きだった。少なくともそれは夏油さんに向けられたことを見たことがなく、心を許してもらえていると思えた。
「交際を他の人に言うのは嫌でしたか」
「……ううん。驚いただけだよ」
そんな真っ赤な嘘をつかないでほしい。言わせたのは私だというのに、身勝手な願望だった。こんな言わせるようなことは嫌いだ。けれども嘘でもいいから安心したい。
私のことを見てほしいという願いを込めて額にキスをすると、引かれてしまわないか不安な思いに反して彼女は顔を赤くしていた。それが何より
次第に夏油さんの気配は感じられなくなった。まだ彼を好きなんだろうか。アプローチに対するリアクションは好ましいものになってきたし、少しは私に好意を抱き始めた頃じゃないか。そう期待していた矢先、彼女は泣いていた。夏油さんを想って泣くほど好きなら、いったいどうすればいい? 私が彼女を想っているくらい、彼女も夏油さんのことが好きなら。そんなの勝ち目がない。それはあまりにショックで遣る瀬無く、それでも好きなのが哀れなほど報われなかった。行き場のない気持ちが、また一つと募っていく。
夏油さんのことは禁句だというのが暗黙の了解となっていた。自分の感情と折り合いをつけたように振る舞っていたが、二人の間に何かあるのではないかといつだって荒れていた。
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相沢(プロフ) - Yukiさん» コメントありがとうございます‼️エーーーーーンヤッターーーめっっっっっちゃうれぴーです!!!!ワッ受験生仲間〜!!毎日死にそうになりますが頑張って生き延びましょ〜!!!❤️🔥レッツ限界! (5月26日 23時) (レス) id: 95aead40e8 (このIDを非表示/違反報告)
Yuki(プロフ) - めっっっっちゃ楽しみにしてます…自分も受験生です死にそうです一緒に頑張りましょ🥺 (5月25日 21時) (レス) @page6 id: 4a658d8cff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:相沢 | 作成日時:2023年5月14日 19時