T.M-10 ページ10
私は姿勢を正し「はい」と返事をする。
すると、増田さんは少し言いにくそうに言葉を続けた。
『オーナーから連絡が来て……出来れば、もう一度採寸させてほしいって』
「えっ？もう一度……ですか？」
『Aさんの足の形は少し珍しくて、細かな部分を怠るとフィット感が一気に落ちるらしいんです』
「そ、そうなんですか……」
『面倒くさいかもな、とは思ったんですけど……彼も根っからの職人なんで、そこは曖昧に出来ないようなんです』
「は、はぁ……」
『あ、でもっ……都合が悪いようなら無理にとは……』
遠慮がちな増田さんの口調に、申し訳なさが滲み出ていた。
確かにまた足を運ぶのは手間だけど……著しくフィット感が落ちるのは、私もかなり嫌だ。
せっかくのオーダーメイドだもん。
ずっと履き続けたいし。
「大丈夫です！行きます」
『本当ですか？ありがとうございます』
「いえ。私も段々楽しみになってきちゃって」
……なんて、嘘つき。
ちょっと前まで、増田さんへの連絡さえ、躊躇っていたくせに。
『あの、Aさん。よかったら、なんですけど』
「はい……？」
『俺も同席していいですか？』
「えっ……」
思わぬ申し出にポカーンとしていると、電話の向こうで慌てたような気配がする。
『いや、俺……昔から服飾関係に興味があって。なかなかパンプスを作ってるのを見られる機会ってないから』
「あ、あぁ」
そういう事か。ビックリした。
そりゃ、男性がパンプスを履く事なんかないもんね。
「別に……私は構いませんけど」
『本当ですかっ？ありがとうございます。邪魔にならないようにするんで……』
「いえ、そんな。気を遣わないでください」
冷静に答えながらも、実はドキドキしていた。
……また増田さんに会えるんだ、って。
彼とはもうスマホ越しの関係で終わると思っていた。
パンプスを引き取りに行く予約票は、私が持っている。
彼と会う理由は、もうなかったから。
けど……。
『楽しみですね』
ふいに耳に届いた、増田さんの柔らかい声。
その言葉に「そうですね」と答えている自分が居た。
それは、とても自然でいて無意識。
心の声が、素直に零れ出たような感覚だった。
ホストなんて、一番近づいちゃいけない人。
そんな事、わかってる。
いくら電話越しの声が優しく、甘く聞こえても。
それに騙されちゃダメ、絶対に。
そう言い聞かせている気持ちもホントだけど、でも……。
自分の中に生まれた僅かな光に、私はただただ戸惑っていた。
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こもも(プロフ) - 7さん» ありがとうございます☆続編の方、今週中には更新出来ると思います！ (2018年7月25日 15時) (
レス) id: 997c86eca6 (このIDを非表示/違反報告)
7(プロフ) - 続きが見たすぎます。お願いします。 (2018年7月19日 9時) (レス) id: e2794de4c5 (このIDを非表示/違反報告)
こもも(プロフ) - めめさん» はじめまして！続きがあるのかなー？と待ってしまってました(笑)お褒めの言葉ありがとうございます。初めてのドリ小執筆でしたのでコメント励みになりました！頑張ります。 (2018年6月2日 21時) (レス) id: 53d2deb50e (このIDを非表示/違反報告)
めめ(プロフ) - はじめまして。先日は文字が切れて失礼しました。キャラ設定と丁寧な描写に惹き込まれております。更新心待ちにしております。 (2018年6月2日 1時) (レス) id: e60eb20bd1 (このIDを非表示/違反報告)
こもも(プロフ) - まあみさん» はじめまして！ありがとうございます。楽しんでもらえるように頑張りますね。 (2018年6月1日 20時) (レス) id: 53d2deb50e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こもも | 作成日時：2018年5月15日 15時
