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「たぶん着いたよ、蛍くん家ココで合ってる?」
「…ん……うぅ……ん…」
中々起きられないタイプなのかな?
最初は声だけだったが、あまりにも起きないので両手で両肩を揺らす。
「けーいくん?けーくん、起きてー」
「う…ん…っ…」
色素の薄い瞳が少しだけ開く。
寝起きで目半開きの顔なんて一般人はとても見れたものではないはずだが
彼のそれはあどけなくも官能的でまさに美そのものだった。
少しシワの寄った眉間、長い睫毛、伏し目がちな金色の瞳。
思わず息を呑む。
固まってしまった私を見てふっと笑みを浮かべる彼。
そのまま右手で私の頰を優しく撫で
流れるようにアゴを引き寄せられた。
「Aさん…すき…」
ドクンと心臓から一気に血液が巡る音がした気がする。
今の私は頭の先から足の先まで赤いだろう。
どんな言葉を返していいか分からずただ口をもごもごとさせている私を横目に
「ココで合ってます。僕が行きたくてついていきましたし
僕もすごく楽しかったです。」
とケロっとした顔で言い放ちながら後部座席の荷物を取っていた。
「ちょっ…もしかして…っ…起きて…!?」
「寝てましたよAさん」
「いや…え……っ…でも…」
「ははっ本当可愛いですね真っ赤です」
「?!?!」
ちゅっと控えめなリップ音と同時に頰に柔らかな感触。
「さっきからかわれたお返しデス。
次会った時は口にしますね、送ってくれてありがとうございました」
少し早口で言い切り彼はスマートに車を降りた。
もう恥ずかしいやらなんやら色々な感情が混ざってパニック状態。
夜のせいで、そうさせた本人の顔を伺うことはできないものの耳が赤い気がした。
車のエンジンをかける。
そこにピコンと通知音。
それはつい先程まで隣にいた彼からで
今もドア越しのほんの数メートル先にいる。
“気をつけて帰ってください。またね”
メッセージまでスマートか。
またねと次を予感させる3文字に改めて愛おしさを感じる。
控えめに手を振って見送る彼に後ろ髪を引かれながら発進させた。
いつもと変わらない夜。
そう分かっていてもなんだか煌めきを感じずにはいられない夜の道を走った。
End
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作者名:葉月 | 作成日時:2020年2月19日 20時