プロローグ ページ1
あの日見た眩しい笑顔を、私はまだ忘れられずにいる。
「え…もう遊べないのか?」
甘い香りに包まれた室内で、眼鏡をかけた少年の声がやけに響いた。
「うん…お母様にあの子たちとは遊ぶなって言われたから…」
台本を用意してきたかのように淡々と話す男の子が俯くと、さらさらの赤い髪が彼の表情を隠してしまう。
「…ほんとに、ごめんな。俺が誘ったから…」
「ううん、トレイたちのせいじゃないよ。ぼくがお母様の言うことを聞かなかったのが悪いんだ。気にしないで」
トレイ、と呼ばれた眼鏡の男の子は、赤い髪で顔が見えない彼を見つめる。
どんな顔をしているかは分からないが、きっと今にも泣きそうなのを必死に堪えているのだろう。
だって、彼の肩が小刻みに震えているのだから。
「リドルくんごめんなさい。わたしがおかしの話をしたせいで…っ」
黒髪をひとつで結んだ少女がぼろぼろと涙をこぼし始めた。
リドルくん、と呼ばれた少年が慌てて顔を上げる。
「A…!?な、泣かないで?」
そもそも、もうみんなで遊べなくなったのは客観的に見ても誰も悪くなかった。
厳しすぎる母の教育を弱音ひとつ吐かずにこなし、束の間の休息としてトレイ達と遊んでいたリドルがケーキを食べただけなのだから。
しかしその事実を知ったリドルの母は激怒した。
「あんな健康に悪い砂糖の塊を口にしたのは、あの子供達と関わってしまったからだ」と。
それからリドルの母は、自分の子供に悪影響を与えた彼らの親を訪ね、怪獣が日を吹くかのごとく叫び散らかしたらしい。
そして彼らはトレイの家で、最後の言葉を交わしていたのだ。
「ふぅ…っ…もうリドルくんとずーっと遊べなくなるなんてやだよ!」
「落ち着けよA。いつかは遊べるからさ」
「トレイの言うとおりだにゃ〜」
トレイとチェーニャが彼女を慰めるが、主人公はふるふると首を降ってリドルに抱きつく。
「…A」
優しい声。
視界にはリドルの顔がぼやけて映る。
「大丈夫だ。ぼくたちはまた絶対に会えるからね」
「…ほんとう?」
ぽたり。主人公の服に丸い染みができる。
リドルは少し躊躇したあと、少女の目元をそっと拭った。
「うん。約束しよう」
彼は真剣な表情で主人公を見つめ直した。
「次会うことができたら…」
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ほたる(プロフ) - 暗闇さん» 暗闇さん、ありがとうございます!宜しければ、最後までお付き合いして下さると嬉しいです。 (2023年2月11日 14時) (レス) id: 858ad6cafb (このIDを非表示/違反報告)
暗闇 - めっちゃめっちゃ面白かったー 最高です‼︎ (2023年2月11日 12時) (レス) @page19 id: 86b45223ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほたる | 作成日時:2023年2月4日 19時