植物に変わる兄妹

第16話 ページ17

長い、長い沈黙が続いた。


最初に口を開いたのはショウマだった。

「兄貴じゃないんなら、誰なんですか」

静まり返った部屋に響く声は、十分なくらい大きく聞こえた。

「…僕は、サクラの……」

ウメはそこまで言うと、サクラの方に目を向けた。

サクラは動揺しきっていて、片手でヨシノの服を掴んでいた。

まるで、その先の言葉を聞きたくないと言っているみたいに見える。


でも…ごめん。僕はこれ以上、サクラに嘘をつきたくないんだ。

「僕はサクラの、父親…です」

うつむき加減だったサクラがぱっと顔を上げた。


「おと…さん…？」

「うん」

「え…じゃ、じゃあ、お兄ちゃんは？お兄ちゃんはどこにいるの？」

聞かずにはいられなかったのだろう。

今なお困惑した顔でウメにつめよった。


「…サクラ……サクラは、本当の兄の名前を知っているかい？」

「え…本当のお兄ちゃんの、名前…？」

「そう、思い出せる？」

サクラは少し考えてから口を開いた。

「えっと……ウメ？」

「ううん、それは僕の名前だね」

「あ…えっと………あ」

そのときサクラは、かすかに思い出した。

(そういえば……そういうやりとり、したことあるような…)



そうだ。私がほんの小さい頃、本当のお兄ちゃんと散歩してたとき、聞かれたんだ。



『ねぇ、サクラ……おれの名前…知ってる？』

『え？ううん。おにーちゃんのなまえ、なんていうの？』

『…ん……普通に教えるのは、つまらないな…』

その人は、眠そうな顔をしながら笑った。

『………当ててみて』

『えっとね、えっとね…ウメ！』

『うーん…父さんとまったく同じ名前は、やだなぁ』

『？いやなの？？』

『……あ…嫌な意味で、取らないでね…顔が似てるし、見分けがつかなくなるから…ね』

『そっかあ。じゃあ！ヒント！ヒントちょーだい！』

『ヒント……桜の花が咲く季節…かな…』

『え、えっと…ふゆ…？』

その人は、眠そうな目でサクラをじっと見て、ほほえんだ。

『……冬に、桜が咲いたら…綺麗だろうね…』

『えっ！ちがうの？』

『…冬の次の季節、だね』

『あ！わかった！おにーちゃんのなまえはね……』



「……ハル…？」

「正解。サクラの本当の兄は、ハルっていうんだよ」

「え…じゃあ、今さっき…お父さんが言ってた、人…？」

そうだよ、とウメはうなづいた。

「お父さん！私、お兄ちゃんに会いたい！」


その陰で、ヨシノは笑顔でサクラを見ていた。

怖いくらいの…笑顔で。

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