【実/況/者】出会いは画面の中で【ky】

#2＿＿＿椎名 ページ3

カタカタとキーボードの音が響くオフィスで、淡々と資料を作成していく。


それにしても、どう頑張っても頭の片隅で先程の会話のことを考えてしまう。

そんな自分にイラついてエンターキーを強く連打する。


私、スーファミの連打はすごく苦手なのに。
次撮るのはフリーゲームにしようか。キーボード縛りでもつけて。



動画投稿は始めたばかりで思うように伸びていない。


でも、数少ないコメントの中でいっつも一コメしてくれるリスナーもついたし、

見てくださった人からツイッターで応援のリプをくださったりもしだしている。


短大を出て、一人暮らし。


毎日変わらない日々を過ごしていた私にとって、

そんな小さなこともいい刺激になったし、単純にうれしかった。



・


作り終えた会議資料を人数分印刷しようと、少し離れたところに置かれた印刷機の前に行く。


立ち上がった瞬間、ぐらりと視界が傾いた。

そして来る鈍い痛み。


それは突然のことで何が起こったのかさえ知る間もなく、重力に身を任せるように倒れた。


キーボード以外の音に、社員が皆こちらを見る。


少し落ち着いて足元を見ると、

履いていたパンプスのヒールがぽっきりと折れてしまっていた。


「先輩、大丈夫っすか」

慌ててやってきて手を差し出してくれるキヨ君。

素直にそれに掴まって、立ち上がる。


転んだ時に捻ってしまったのか、体重を乗せると軋むように足首が痛んだ。


『大丈夫』

少し強がっては見たもののやはり痛いものは痛くて。


「全然大丈夫じゃない、資料できてるんなら休憩ありっすよね？
　給湯室行きましょう。」

歩けますか、と答える暇なく問いかけてくるキヨ君に

ゴメン肩貸してとことわり掴まらせてもらう。


スリッパに履き替えなきゃだし、丁度コーヒーも飲みたかったし


と理由をつけ給湯室まで急いだ。

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