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私…ジンさんになんてことしたんだろう。
抱きついたり、触れたいだなんて…。
『恥ずかしい…』
側にあったクッションを抱きしめると、ジンさんの香りがした。「Aちゃんが僕と離れていても寂しくないように、僕の香り付けていくね」と、日頃からこのクッションを抱きしめているから。
ジンさんの香り…。
『好き…』
香りだけ好きなのって、聞かないで。
香りに隠した私の本心に気付いて。
カトクを知らせる通知音に、スマホを開いて憂鬱な気持ちになった。
相手はヨン先輩で、「今何してる？」とそんな会話。
連絡先を交換したくはなかったけど、仕事の都合上それを断る事もできなくて。仕事の話だけお願いしたのに、送られてくるカトクは「今度はいつ空いてる？」「休日会えない？」とプライベートな内容。
私に彼氏がいたなら、迫ってきたりしないんだろうか…。
ジンさんに彼氏役をお願いしてみる？
『ダメだよ…そんな失礼なこと…』
優しいジンさんなら快く引き受けてくれるかもしれない。
私が困っているなら、力になってあげると。
でも、振りだけなんて、必要なくなったらさよならなんて。
きっと…私の方が寂しくなってしまうから。
もっと側にいてくださいと、ねだってしまうから。
『ジンさん…』
なんとも思っていなかった人が、今はこんなにも恋しい。
いい加減にして下さいと煩わしく思っていたのに、ジンさんの温もりが恋しい。
『ジンさん…』
私の口から出てくる言葉はジンさんの名前。
一度呼んでは、また呼んで。
名前を呼んでも、何も変わらないのに。
好きだと自覚したら、止められない恋心。
ジンさんも、ずっと私をそんな風に思ってくれてたの？
玄関から聞こえてきた呼び鈴。
ジンさんだと思ったら、ドキドキと胸が高鳴る。
扉を開けると夕食を持って来てくれたジンさんが立っていて。
「あの、これ…、」
『あ、ありがとうございます…』
「………」
『………』
顔を見合わせてお互い無言。
さっきの事があって気まずいと言うか、気恥ずかしい。
「じゃあ、僕はこれで…、」
『え、部屋に上がって行かないんですか？』
「うん……今日はやめとく」
『どうしてですか…？』
「多分…部屋に上がったら…僕、Aちゃんのこと襲ってしまいそうになるから…」
またお互い無言になって、その無言も相手がジンさんなら心地いい。
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作者名：bluemoon
| 作成日時：2021年3月7日 21時
