桜の花びら舞うころに３

帰る場所ーRen ページ2

今日は直帰しようと決めていた。


会社のボードに"営業回り 直帰"と書き込むと上司に声をかけられない内に会社を出る。


たまにはええやろ。



今日は先に帰ってAの帰りを待っていたい。

いつも待ってくれていた。

どんなに帰りが遅くても、家に帰るとAがリビングで寝ていて、俺が帰ってきたことに気づいて起きると、
『おかえりーおやすみー』
と言ってベッドに入っていたA。

単に寝落ちしてただけ…という可能性がなきにしもあらずやけど、待っていてくれる人がいるというのは嬉しかった。

仕事終わりのAを待てるのは今日で最後。





Aが運送会社に就職すると聞いた時、めちゃくちゃ嫌で大反対した俺。

男ばっかりの職場で、A絶対声かけられるやん。

その中には口のうまいやつもおるやろうから、Aうまいこと誘われて連れて行かれそうやん。

っていうか大吾と話しとってもあんまり笑っとると引き離したくなるのに、不特定多数の男だらけの職場なんてありえん。
ありえん。無理無理。俺が耐えられん。


なんて本音を伝えられるわけもなく、
とにかく心底嫌な顔をして、おめでとうとも言えへんかった。


今考えると大人気ないにも程がある。


でも、最後に反対した時、俺との将来を妄想して嬉々としているばかりで、
他の男のことなんて微塵も考えてないAの姿にこれまでひとりでモヤモヤしてたことがアホらしくなった。


ほんまのほんまに、Aの中には俺しかおらへんのや…。


そう確信を得た途端、湧き上がってくるフワフワとした何か。全身が飲み込まれそうになるのを口元を押さえてなんとか堪えた。

でないと、ニヤついてしまいそうだったから。
ファミレスで彼女を前にしてニヤついてる顔を誰にも見られるわけにいかない。

今すぐにでも抱きしめたい衝動を抑え、納得しつつもAに釘を刺した日から数年…。



楽しく働いていたのに、
突然辞めたいと言い出したことには驚いた。けど、理由をしつこく聞こうとは思わなかった。


恵まれた職場を辞めてしまうのはもったいないとは思う。でもAはきっと分かってる上で辞めたいと言ったはず。


Aが何を思っているのか、結婚するからって本心を全部知る必要はない。

この先も、俺が帰る場所にAがいてくれる。
それでいいと割り切らないと。





アパートに着くと、テレビを見ながらAに連絡を入れた。
Aも帰ってる途中なのか、すぐに既読になった。

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