落ちない染み ページ1
「ただいま」
アパートの部屋に帰り、リビングへ行くとテレビを見ていた廉は私を見て
おかえり、と微笑んだ。
花束をリビングの机に置いていると、
「どしたん？その赤いの」
と、廉が胸元にあるブラウスの染みを不思議そうに見てきたから、
「ちょっとインクが付いちゃって…脱いでくるね」
そう答えると染みた部分を握りながら洗面所に入った。
ブラウスを脱ぐと、
水を貯めたシンクにブラウスを浸す。
帯のように浮かび上がってくる赤い色素。
ブラウスを水から取り出して石鹸を使い擦ってみたけれど、細かい布目に入り込んだ色素は落ちそうにない。
それどころか擦った部分に広がっている。
落ちてよ。
まっさらな白に戻ってよ。
そう願いながら、
落とそうとしても、擦れば擦るほど広がっていく染みに無性に苛立った。
もういい。
……もう、捨てよう。
しばらく使うこともないし。
ブラウスを絞って水を切ると、キッチンにあるゴミ箱に捨てた。
苛立ちから手つきが乱暴になり、投げつけるように入れてしまう。
「ん？あのブラウス捨てたの？」
音に気づいた廉がリビングから声をかけてきた。
「…うん。染み、落ちなかったからもういいや！」
「そんなしつこい染みやったんか。
もったいないけど仕方ないなー」
明るい声で返事をすると、
廉ののんびりした声が返ってきて、苛立ちも収まった。
たかが染みに対してなんでこんなに苛立ってるんだろう。
…なんで、じゃないか。
自分に苛立ってるんだ。
肌が空気に晒されるとより分かる。
身体が熱を失っていないこと。
与えられた熱が冷めないまま、平然と廉に話しかけてる自分が嫌でたまらない。
こんな思いをする為に仕事を辞めたわけじゃないのに。
キャミソール姿のままリビングへ戻るとテレビを見ている廉の隣に座り、そのまま廉の肩に頭を預け目を閉じた。
「服、着ーへんの？」
「着るよ。でも、少しだけこうさせて」
肌に直接伝わってくる廉の温もり。
元々、この温もりしか知らなかったの。
この温もりだけ知っていれば良かったの。
元に戻るだけ。
私は何も変わってない。
…変わってない。
不意に手の甲に温もりが触れた。
目を開くと、廉の手が重ねられていた。
「おつかれさん。ゆっくり休んでな」
「ありがとう…」
言いながら、軽く頬に口付けると、廉はテレビを見たまま白い歯を見せて笑った。
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かな - 続きが読みたいです、、 (7月24日 6時) (
レス) @page50 id: 7200219c9a (このIDを非表示/違反報告)
ミナ(プロフ) - 更新すごく嬉しいです😭ずっと待ってました…ほんとに描写が綺麗すぎて、わたしも紫耀くんにこんなふうに思われたいです😭 (2023年5月4日 9時) (レス) id: 180ecb31f5 (このIDを非表示/違反報告)
きょん(プロフ) - 一気に読んでしまいました！惹き込まれるくらい素敵なお話です！更新楽しみにしてます！ (2023年2月19日 11時) (レス) id: 4cb7560b67 (このIDを非表示/違反報告)
小松ミナ(プロフ) - 宝物みたいに好きなお話です。更新ほんとに嬉しい（涙）ありがとうございます (2023年2月8日 14時) (レス) @page44 id: f4f49d3608 (このIDを非表示/違反報告)
小松ミナ(プロフ) - 更新すごく嬉しいです（涙）ずっと待ってたので（涙）ありがとうございます (2023年1月29日 9時) (レス) id: f4f49d3608 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ピナパル
| 作成日時：2021年6月17日 11時
