やさしい世界 ページ2
「充分してもらってるよ。充分だから」
そう言うとAはいつものように微笑んだ。
弱々しい掠れ声。
挙式を終えてしばらくして体調を崩したA。
つわりがキツくて、
何を食べても戻してしまうようで、家に帰る度に元々細い身体が更に細くなりやつれていく姿に胸が締め付けられるように痛んだ。
「何もしてあげれてないよ」
炊き立てのご飯の匂いですらダメなのに、
ももかがご飯を食べる時は必ず同じテーブルに座り、穏やかに微笑んでももかの話を聞いているA。
俺の時も同じ。
弱音を吐かないで、ひとりで耐えている。
昔から変わらない部分だけど、
こんなにキツい状態の今くらい、頼って欲しいと思ってしまう。
やっと、一緒に暮らせるようになったんだから。
助け合いたい。
Aは小さく首を振り、俺の顔に手を伸ばした。
頬に触れる指先は冷たくて、体温が低いんじゃないかとまた心配になる。
「いてくれるだけでいい…」
「A…」
「紫耀くんが、私のところに…帰ってきてくれるって分かってるだけでいいの」
Aは目を細めて微笑んだ。
儚さを漂わせる笑顔に不安が生まれて思わず頬に触れる手を掴んでしまう。
やっぱり冷たい。
「Aは…欲が無さすぎるよ。
もっとワガママになっていいのに」
これまでずっと耐え続けてきた。
生命を宿した身体となってもまだ耐えなきゃならないなんて。
勇気を持って、自分勝手になっても良い。
いや、なって欲しい。
全部受け止めるから。
「ワガママ…？」
「そっ。たまには自分がやりたいように振る舞ってみたらいいじゃん」
「やりたいように…」
「キッツイ！しんどい！いやだー！って言ってみたりさ！」
「子供みたい。ふふっ」
Aは笑い声を溢すと起き上がり、ソファにもたれた。
「大丈夫？」
「うん。横になってばっかりも身体痛くなっちゃうから。…紫耀くん、隣きて」
腕を引かれ、床から立ち上がるとソファに座る。
するとAは俺の手を取りお腹にそっと当てた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 456人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
メープル(プロフ) - 更新楽しみにしてます！！ (8月4日 17時) (
レス) @page16 id: ca364df23b (このIDを非表示/違反報告)
おだちゃん(プロフ) - 永瀬くんのお話楽しみにしてます♡ (2023年3月13日 9時) (レス) @page15 id: ab51813c38 (このIDを非表示/違反報告)
たそ(プロフ) - 他界隈ですがたまたま見かけてオールして全部見させて頂きました。今までジャニーズとは無関係でしたが読む手が止まらないくらいの神作品です！これからも応援しています！！ (2023年1月8日 8時) (レス) id: f8f3836cb6 (このIDを非表示/違反報告)
おだちゃん(プロフ) - このお話の大ファンです♡また読むことができて嬉しいです！更新ありがとうございます！！ (2022年10月9日 8時) (レス) @page13 id: ab51813c38 (このIDを非表示/違反報告)
こころ(プロフ) - ピナパルさんのお話好きです。桜の〜の方もハマっていたので、更新楽しみにしてます！！ (2022年3月4日 1時) (レス) @page7 id: f2c5e943bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ピナパル
| 作成日時：2022年2月10日 1時
