聖なる夜にー高梨 ページ21
時計を見ると日付が変わっていた。
クリスマスを会社で過ごすのも何年目か。もう数えてない。
窓の外に目を向けるとイルミネーションで輝くお大通りを大勢の人々が行き交っている。
ほとんどがカップルだ。
これから甘い夜を過ごすのだろうか、
と思いを巡らせると不意に、彼の姿が頭に浮かんだ。
* * * * *
「…いっつも幸せそうなんです」
ひとしきり思いを吐き出した永瀬さんは遠くを見つめてつぶやいた。
「1人で産んで、1人で育てて、不安やろうに、辛いやろうに…
泣いたのなんて数えるほどしかなくて、それも限界なときだけで、それ以外は愚痴1つこぼさんでいっつも笑ってる。
なんでこんなに笑っていられるんやろって不思議でたまらんかった。
せやけど、シンプルに考えたら理由なんてたったひとつしかなくて。
けど、俺はその理由をどうしても認めたくなくて…」
言いかけた言葉を噤み、唇を噛み締めると微笑むと同時に息を吐いた。
その瞬間、私の中にあった何かが崩れた。
プライド?心の盾?自信?
分からない。
ただ、ひとつだけ明確に感じたこと。
大きな勘違いをしていた。
不幸なのは紫耀だけじゃなかった。
目の前にいる永瀬さんもまた、苦しんでいた。
答えが出ることを求めていた。
だからこそ、決心してここへ来たのに…
もしかしたら紫耀も、永瀬さんと話した方が気が晴れたのかもしれない。
なのに……
なんて愚かなことをしてしまったんだろう。
今日だけじゃない。
「…ごめんなさい…」
漏れ出た言葉に永瀬さんの視線がこちらへ向く。
「何もかも、私のせいなんです」
「…?どういうことですか?」
疑問しか含まない無垢な視線が私を貫くと、脳裏にこれまでの記憶が次々と蘇ってきた。
事務所に入ったばかりで無邪気だった紫耀。
成長するにつれ輝きを増していく紫耀。
天然さでいつも現場を和ませていた紫耀。
絶望に打ちのめされた紫耀。
私の目を見なくなった紫耀。
すべてを告白し嗚咽する紫耀。
「……っ…」
計り知れない後悔が、雫となって零れ落ちる。
「…高梨さん?」
2人…いや、永瀬さんの運命まで変えてしまったのは私だったんだ…
『ここを、引っ越してくれない?』
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愛 - 続きはまだでしょうか?急かしてるわけではなく、純粋にこのお話が好きすぎて続きが気になるんです!更新待ってます。 (2019年7月26日 23時) (レス) id: 88c3d5de1a (このIDを非表示/違反報告)
すこ - 引き込まれました。キャラクターたちの心情を、一人ひとり大事に大事に書かれてるように思います。切なくて、でもお互いを大切に思っていて、すごく素敵な作品だと思います。次の更新を楽しみにして待ってます。 (2019年7月4日 1時) (レス) id: ca0d230652 (このIDを非表示/違反報告)
atu66mi67yu129(プロフ) - 更新ありがとうございます。廉くんとは…ならないんですかねぇ…これからも楽しみに待ってます。頑張ってください。 (2019年7月3日 7時) (レス) id: c65eb063a4 (このIDを非表示/違反報告)
シー(プロフ) - 1から6まで一気に読んだくらい本当に面白いです!更新頑張ってください!! (2019年7月1日 7時) (レス) id: dfd347ea96 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - こんなに引き込まれた小説は久しぶりで、一気に読みました。続きを楽しみにしています。 (2019年6月11日 14時) (レス) id: e8aeac1cf5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピナパル | 作成日時:2018年10月22日 8時