はじまりの記憶５ーRen ページ13
大学３年の冬。
大講義室で次の授業の準備をしていると、俺を見つけた顕嵐が慌ただしく隣に座った。
「廉！クリスマス何してる？」
「バイト」
「バイト終わったあとは？」
「家帰って寝る」
「それでいいのかよ！？」
顕嵐が驚愕の顔つきで見てるのはわかってたけどスルー。
「お前、最近全然合コンも来てくれねーし、大学も講義だけ出たらすぐ帰るし、どーした？」
「いろいろと忙しいんよ」
「忙しいって？…まさか彼女でもできた！？」
「できてへん。とにかくいろいろあんの」
「なんだよいろいろってー」
いろいろはほんまにいろいろ。
大学が終わるとバイト先に直行。
バイトが早く終わった日は電車とバスを乗り継いで行かなければいけないところがある。
郊外にある古ぼけたアパート。モニターもないインターホンを鳴らすと、ゆっくりとドアが開いた。
「永瀬くん、今日も来てくれたんだ」
「当たり前やん。できるだけ来るって言うてたやろ？」
「ありがとう」
一層柔らかさが増した笑顔に、今日あった嫌なことも吹っ飛んでしまう。
Aさんが仕事を辞めて引っ越してから、こうして月に数度アパートを訪ねるようにしていた。
会うたびに痩せた身体が丸みを帯びていくAさん。
その度に、話に聞いていただけでは到底信じられなかった、彼女が妊娠しているという現実を目の当たりにさせられる。
正直、苦しいときもある。
けれど、
「Aさん、ちょっとそのへん散歩でも行く？」
「うん」
二人だけで過ごせる時間が、尊くも感じる。
切なさと喜びが同居するこの感情は、複雑と表現するしかない。
公園を歩いていると、小さい子向けの遊具で遊んでいる親子がいた。
ヨタヨタと歩く女の子を必死で追いかけるお父さんとそれをベンチで座って見てるお母さん。
「お父さん頑張ってるわー」
「ね。女の子、前しか見てない。可愛いなー」
Aさんはその親子をしばらく笑顔で見つめると、そっとお腹に手を当てた。
きっと、頭に浮かんでるのはここに居ない人のこと。
誰よりも会いたくて、だからこそ会えないその人のことをどうしてこんなに優しい笑顔で思い出せるんやろ。
あぁ、苦しみが増していく。
それでも、
「生まれたら来ようなー？」
お腹に話しかけるように言うと、Aさんは一瞬驚いた顔をしてからすぐに微笑んだ。
「ありがとう、永瀬くん」
そばにおりたい。
力になりたい。
それだけで、俺は幸せ。
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愛 - 続きはまだでしょうか？急かしてるわけではなく、純粋にこのお話が好きすぎて続きが気になるんです！更新待ってます。 (2019年7月26日 23時) (
レス) id: 88c3d5de1a (このIDを非表示/違反報告)
すこ - 引き込まれました。キャラクターたちの心情を、一人ひとり大事に大事に書かれてるように思います。切なくて、でもお互いを大切に思っていて、すごく素敵な作品だと思います。次の更新を楽しみにして待ってます。 (2019年7月4日 1時) (レス) id: ca0d230652 (このIDを非表示/違反報告)
atu66mi67yu129(プロフ) - 更新ありがとうございます。廉くんとは…ならないんですかねぇ…これからも楽しみに待ってます。頑張ってください。 (2019年7月3日 7時) (レス) id: c65eb063a4 (このIDを非表示/違反報告)
シー(プロフ) - 1から6まで一気に読んだくらい本当に面白いです！更新頑張ってください！！ (2019年7月1日 7時) (レス) id: dfd347ea96 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - こんなに引き込まれた小説は久しぶりで、一気に読みました。続きを楽しみにしています。 (2019年6月11日 14時) (レス) id: e8aeac1cf5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ピナパル
| 作成日時：2018年10月22日 8時
