ＦｉｒｓｔＬｏｖｅ５*･゜ﾟ･*:.｡..｡.:*･

伝えたい想い ページ39

ベッドで眠るももかを眺めていると、
キッチンから食器の落ちる音がしたあとに流水音しか聞こえてこなくなった。

不思議に思ってキッチンを見ると食器を洗っていたはずのAがいない。

近付いていくと、キッチンの床でAが肩を震わせ声を押し殺して泣いていた。



「……A」



思わず、その背中を抱きしめていた。
一緒に暮らしてる相手がいると言っていたのに。
だけど、抱きしめずにいられなかった。



「泣かないで」


そう言うと、Aは何度も激しく首を振り懺悔の言葉を繰り返した。

随分長いこと同じ時間を過ごしてきたけれど、
こんな風に感情を爆発させて泣くAを見たのは初めてだ。




「…ごめんなさい……っ！」



また謝ってる…

再会してからこれまで、夢の中でもAは謝り続けてきた。

謝られるたびに考えていた。


妊娠したこと
黙って消えたこと
出産したこと
他の男に頼ったこと
他の男と暮らしていること


悪いことをひとつでもしただろうか。


最後に触れてから５年、明らかに細くなった体。
荒れた指先。


心も体も、どれだけの重荷を背負ってきたんだろう。
…どれだけの重荷を、背負わせてしまったんだろう。









あの日、遊園地でももかと出会わなければ、Aをこんなに泣かせないで済んだのかな。


もしも出会わずにいたら、Aはこれまでの日々を続けていけたんだろう。


…誰にも言えない秘密を抱えたまま。


俺は…あのまま現実から逃げ続けて、Aを恨んで憎んで生きていったんだろう。


…何も知らずに。





「全部…見て欲しかった……！」



俺も、全部見たかったよ。
大きくなっていくももかのことも、お母さんになったAのことも。
ずっと一緒にいたかった。

だけど、もういいんだ。

今日だけで何もかも分かったから。

この５年間、絶望のドン底にいたと思ってた。
けど、違った。

ずっと、愛されてたんだ。



「A」



Aを腕から解放すると、こちらを向かせた。

涙と鼻水でグシャグシャの顔。

こんな子供みたいに泣く顔も初めて見た。





可愛い。

愛おしい。




愛してるよ、A。




思い切り抱き締めて伝えたかった。



けど、俺がAに言わなきゃいけないのは違う言葉だね。



ちゃんと言う。絶対に言うから…


最後にひとつだけ、望みを叶えさせてください。

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