ＦｉｒｓｔＬｏｖｅ５*･゜ﾟ･*:.｡..｡.:*･

消えてくれない ページ21

「紫耀、顔色が悪いわよ？」

「…大丈夫です」



最近、高梨さんは俺の顔を見るなり同じことを言う。

大丈夫なのかどうかなんて興味ない。




ここ数週間、まともに食べ物が喉を通らずいつ寝たかもわからないままに毎日を過ごしていた。


食べ物を見ると、Aの作った料理を思い出し、
目を閉じると、Aの泣き顔が浮かび、
何をしていても、あの日、押さえつけた手の感触が消えない。


憎しみの感情はすべて失せ、後悔と懺悔の念に心を縛られていた。




「紫耀、今日撮影が終わったら病院に行きましょう？」


出演した映画のスチール写真撮影のスタンバイ中、高梨さんに声をかけられた。


「心配だわ」


高梨さんの言葉が耳の外を通り過ぎていく。

この人は、どういうつもりで心配なんて言葉を使うんだろう。
何が心配なんだ。
あぁ、そうか。俺が倒れていなくなったら仕事に穴をあけることになるもんな。
それは心配だ。



「大丈夫ですよ。仕事はきちんとやりますから」

「そういうことじゃなくて…「平野さん撮影お願いしまーす！」



スタッフに声を掛けられ立ち上がると、何か言いたげな高梨さんの視線を振り切り撮影位置につく。


鏡を何枚も使う撮影。鏡の中には無数の俺がいる。


…吐き気がしてくる顔だ。
なんにも知らずに、一方的な思い込みでずっとAを責め続けていた愚かな人間の醜い顔。






「平野さん！じゃあ鏡に触れてください！」


カメラマンの指示に従い撮影をしていく。




「こちらに背を向けて鏡の中の自分を見て手を重ねてもらってもいいですかー？」



指示通りのポーズをとると、頭の中に突然、ももかの顔が浮かんだ。


『しょうくんわらってー？』


素直で可愛い子だった。

Aは、どんな思いであの子を育てて来たんだろう。







『しょうくんの笑ったお顔好きだよー！』




ももかの笑顔が浮かぶ。

Aにそっくりな優しい笑顔。







『そっくりなんだよ…』




また、声が響く。






あぁ、Aにそっくりな…可愛い子だね。






『ももかは…紫耀くんの子だよ…』







絞り出すような声に胸が締め付けられると同時にハッとなった。



鏡に触れる手が震える。








……なんで…ことあるごとにももかのことを思い出すのか…







どうして俺は、これまで気づかなかった？









「本当に、そっくりだ…」









鏡の中の自分の顔に、ももかの顔が重なった。

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