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暫く歩いていると不意に皇輝が立ち止まった。何事かとその視線を辿ると、植え込みから黒い塊が勢いよく飛び出した。
目の前を横切った黒い影。猫だった。
「昔から猫が好きだった」
いきなり何を言い出すのかと思った。皇輝の突拍子もない言動には慣れていない。
「覚えてない？猫、公園に捨てられてたのを2人で世話してたの」
勿論覚えていた。忘れられるはずない。
中学3年生の晩秋、近所の公園に仔猫が2匹捨てられているのを見つけ、私たちはいそいそと餌をやったりミルクを飲ませたりしていた。
皇輝の家はペット禁止でうちは弟が猫アレルギーだから、可哀想だから連れて帰ることは出来なかった。
仲のいい2匹を引き離すのは可哀想だったし、仕方なかったんだ。
だけど、そんな話。どうして今、
「猫が好きだったんだ」
そうだ。私は可哀想だと思って甲斐甲斐しく世話をしていたけど、何故か見ているだけだった。
実際撫でるところもミルクを与えるところも見たことがない。なのに皇輝はずっと猫が好きだと言い張っていた。
「アレルギーだった」
「え」
「好きだったんだ、本当に。猫と戯れるAが好きだった」
時間がいきなりスローモーションになった。
雨の音が遠く聞こえる。世界は少し、遅く動いている。…違う、私の心臓が速すぎるだけだ。
「でも、」
でも。
皇輝の言葉に続きがあることを私は何故か知っている。黒曜石みたいな真っ黒な瞳にはあの黒猫は同化してしまって映らなかった。
猫、猫が好き…。あれ、でも。
あの後あの子猫たちはどうなったんだっけ。
「あの子たちが生きてたら、俺らも何か変わってたのかな」
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作者名：ベルカ | 作成日時：2020年10月23日 12時
