第29話 ページ32
◇
ふざけた私に笑顔の圧をかける降谷に叫んで謝罪すると、私は今しがた起きた出来事を降谷に話した。
｢加賀利、君なぁ…もう少し落ち着いて行動しろよ……｣
｢ウッ……以後気を付けます…｣
案の定、降谷は見慣れた呆れ顔をする。
さらに、この用具室の扉は壊れていて閉めると内側から開かないらしいので、万が一何かの反動で扉が閉まったらどうするんだと降谷はボヤいた。
そんな彼に私はハハ……と乾いた笑いを浮かべて、床に転がっているバケツを元の場所へ戻した。
その間降谷は取りに来たチリトリを探していたが、どうやら全て使われているようだったので諦めて一緒に用具室を出た。
｢で？怪我はしてないのか？｣
｢んー、たんこぶ出来たかも……｣
並んで歩いていると、降谷が私の頭をじっと見て聞いてきた。
まだ少し痛むところを指さして答えると、ふいに彼の手が私の頭に伸びてくる。
さわ…と降谷の大きな手が私の髪に優しく触れられ、思わず足を止めた。
突然のことに私は借りてきた猫のようにされるがままになっていたが、突如バケツが当たったところに激痛が走って我に返る。
｢痛っ！？ちょ、降谷？！｣
｢悪い、つい……それにしても腫れてるな。早めに冷やした方がいいぞ｣
わざわざ痛いところを触られたのでじろりと睨むと、降谷は謝ってその手を退ける。
つい、って何？つい、って？
そんなにふざけたのが頭にきてたの？
訳が分からなくて、思わずふいと顔を逸らす。
保健室に行くよう勧める降谷に、後で行くよ…と言って、私は止まってしまっていた歩みを進めた。
少し遅れて降谷も歩き出すと、萩の大きな声が前方から飛んできた。
｢尚ちゃん、降谷ちゃん！こっちこっち〜！｣
｢お〜萩！｣
長い腕をブンブン振り回して私達を呼ぶ姿はとても目立つのですぐ分かった。
私も手を振って駆け足で近付くと、その隣では諸伏が小さく手を振り返してくれていた。
諸伏、君かわいいな？
｢二人とも一緒だったんだね｣
｢ああ…ちょっと色々あってな｣
余計なことは言うなよ、という私の視線に気付いた降谷が、少し意地悪な顔で私の方を見て答えるものだから脇腹を小突いてやった。
目が合ってお互いにふふっと笑っていると、唐突に班長の声が響く。
｢鬼塚教場、手を休めるな！とっとと掃除終わらせて飯にするぞ！｣
私達は、オウ！と元気よく返事をして掃除を開始した。
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作者名：りもねん | 作成日時：2022年5月28日 14時
