第1話 ページ4
◇
｢おい、何見てんだよ……尚｣
足元をふらつかせながら私の方へ歩いて来たのは、思わず触りたくなるようなくるくる天パの黒髪。
口元から血を流し、おまけに差し歯まで抜かれている。
｢陣平こそ、なにやってんの｣
｢うるせぇよ……見りゃわかんだろ｣
そう言って手の甲で血を拭う彼は、幼馴染の松田陣平。
彼は昔からケンカっ早く、こうやってすぐに怪我をする。長年一緒にいるので今更驚きもしないが、本当に困ったものだ。
それはさておき、私が思わず目を奪われた彼らの喧嘩はいつの間にか終わっていて、二人ともふらふらしながら寮に向かっていた。
もう一人の金髪はまっすぐ寮に戻って行ったが、私に気づいた陣平はこちらに歩いてきたのだ。
｢もう……ほら、手当てするから寮戻ろ｣
そう言って彼に腕を回して肩を貸せば、陣平はムスッとした表情をしながらも大人しく体重を軽く預ける。
｢で、あれ何の喧嘩？｣
｢……アイツの、警察大好きって根性が気にくわねぇんだよ…｣
先程まで殴りあっていたのは、同じ班になった金髪の青年──降谷と言ったか──のはずだ。
たしか入学式で総代を務めていた、成績トップの優等生。
たしかにクソ真面目そうだもんなぁと思っていると、その事の発端である天パが、だぁ〜！クソッ！！と空いた片手で自分の頭をわしゃわしゃする。
｢あ〜ムカつく｣
｢ハハ……仲良くなれそうで良かったよ｣
｢はあ？お前、ちゃんと話聞いてたか？｣
もちろん、とへらへら笑って言えば、全く力の籠ってないグーパンチが飛んでくる。
それを受け止めてごめんごめんと軽く謝れば、狂犬のように睨みつけられた。
｢まあ……医務室から薬箱借りてくるから、自分の部屋で待ってな｣
｢……おう｣
そう言って私は、彼の背中を男子寮の方へと押した。
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作者名：りもねん | 作成日時：2022年5月28日 14時
