第17話 ページ20
◇
資料室を覗き込むと、普段は温和な諸伏が、その彼がするとは思えない程必死の形相で何かを調べていた。
「……ねぇ、離して」
私は降谷と壁の間に収まっている状態のため狭くて身動きが取れず、覗き込んだ体勢から上手く戻れない。
しかも、私の腕を掴んでいる彼の大きな手は、段々とその力を強めていた。
痛い、と言って顔を顰めると、彼はぱっと手を離してごめん、と謝った。
それにしても降谷、握力強すぎじゃないか?
そう、まるでゴリ……いや、言わないでおこう。とにかく、握力が人間じゃないくらい強いと思った。
私達はそっと資料室を後にして術科訓練棟へと歩き始めると、降谷は腕は大丈夫か、と心配の声を掛けてきた。
「全然大丈夫、気にしないで」
昨日ほっぺつねっちゃったのもあるし……と小さな声で付け足すと、彼はくつくつ笑う。
「あれは流石に痛かったな……君、わざと怪我をしている方を狙っただろう?」
「うぅ、ソウデス……ごめんなさい……」
じゃあお互い様だな、と彼は言うので、そうだね、と笑い返す。
そして、先程のことが気になっていた私は彼に尋ねた。
「てか、さっきの何?私も調べたい事あったのに……それに、諸伏もどうしたの?あんなに必死になって……」
「ああ、さっきのは悪かった……」
私を無理矢理連れ出した事に対して彼は素直に謝罪する。
どうやら彼は諸伏の様子がいつもと違ったので、私を連れて出てきたようだった。
そして彼は、松田の事を教えてもらった借りもあるしな……と言葉を続ける。
「十五年くらい前の話だけど、長野で夫婦が惨殺された事件って知ってるか?」
「ん〜、聞いたことないな……」
それなら、と降谷はその事件の概要を教えてくれた。
長野県でとある夫婦が自宅にて惨殺された。
包丁で滅多刺しだったようで、相当被害者に恨みがあったのではないか、という見解だったが、未だにその犯人は捕まっていない。
押し入れに一人隠れていた子供は、殺されずに生き延びたそうだ。
そして、その子供こそが諸伏なのだと。
私はそれを聞いて、彼に両親についての話題を振ってしまったことを酷く後悔した。
きっと、彼にとってはもの凄い苦痛だったろう。だからあんなに表情が曇っていたのだ。
「この事は、
そう言う降谷の表情はとても真剣だ。
私はごくりと唾を飲み込んで、分かった、と告げた。
204人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りもねん | 作成日時:2022年5月28日 14時