廿参話 泣けなかった ページ24
ふぅ、と深呼吸をする。
バッと駆け寄って後ろから抱きつけば、一瞬その肩が強張ったけれど、すぐに普通に戻った。抱きついてきたのが誰か分かったらしい。まあこんな事するのは私しか居ない。
「……A?」
「うん。久しぶり、カナヲ」
1週間振りに蝶屋敷を訪れていた。大して久し振りではないのかもしれないけれど、前は2日に1回は来ていたから、体感的には久し振りだ。
こてん、と頭を乗せる。
「ごめんね、来れなくて」
「……だいじょうぶ」
ゆっくりとカナヲから離れて隣に座る。
何となく蝶を眺めていると、「私」とカナヲが言葉を発した。隣を向く。
「泣けなかったの。カナエ姉さんが死んだ時」
「……そう」
「身体中汗をかくだけで、涙は出なくって。皆泣いてたのに、私だけ泣けなかった」
そうだろうなと思った。いつも無表情のカナヲが、カナエさんが死んでしまったからといって泣けはしないだろう。
勿論カナヲが薄情だとか、そんな事を思ってるんじゃない。きっと動揺はしていただろう。それでも泣けなかったんだ。
「皆それでも優しくしてくれたけど、私……」
「……良いんじゃない?」
私がそう言えば、カナヲが私に目を向けてくる。
「感情を素直に顔に表すのは大切な事だと思う。でもさ、出来ないのはカナヲのせいじゃない。そういう風に育ってきたから出来ないの。今から少しずつでも、練習していけば良い。きっとみんな待ってくれる」
カナヲが言いたいのはそんな事じゃないっていうのは分かってる。
哀しくて仕方ないのに涙は流れてくれなくて、なのに皆は泣いていて、自分だけ泣いていなくって。まるでカナエさんの死を哀しんでいないみたいで、それが嫌だったんだ。
哀しんでいる証拠が、涙が、流れてくれないのが。
でも私は子供だから。こんな事しか言えないの。こんな時カナエさんだったら何て言うんだろうと考えたけど、分からなくて。
「……私、Aになりたかった」
びっくりした。
「……何で?」
「だってAは、クルクル表情が変わるでしょ。笑顔も可愛くて、きっと見てる皆が嬉しくなる。私はそれが出来ないから」
「そんな事無いよ。私もカナヲが少しずつ話してくれるようになったの、すごくうれしいよ」
「でも……」
「カナヲ」
少し強めに彼女の名前を呼ぶ。頬を挟んで無理矢理顔を向けさせた。
「どうにもならない事を言わないの! 私はカナヲが大好きだし、しのぶさん達も絶対そうだから」
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瘉月(プロフ) - ゆずさん» 原作は悲しいこともありますが…それ以上に楽しいこともあるので、楽しみにしています! (2020年9月14日 21時) (レス) id: c566db76b6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆず(プロフ) - 瘉月さん» ありがとうございます! 早く原作に入りたくてウズウズしているので、時間を見つけて更新しようと思います。 (2020年9月14日 19時) (レス) id: d7263fa231 (このIDを非表示/違反報告)
瘉月(プロフ) - 本当に面白いです!毎回見てます。頑張ってくださいね! (2020年9月14日 17時) (レス) id: c566db76b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆず | 作成日時:2020年8月8日 21時