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拾弐話 祈らずとも朝日は優しい ページ13

基本実弥さんから話しかけてくる事はあまり無い。だから必然的に、私が口を開かなければ沈黙が流れる。
でも居心地が悪いと思った事は無かった。むしろ、安心するような暖かい空気。

卵焼きを頬張りながら正面の実弥さんの顔をジッと見る。
黙々と食べていて箸が全く止まらない。でも急いで食べてるって風でも無い。
美味しいと思ってくれているようで、思わず頬が緩んだ。


でも、と思う。このまま流しちゃダメだ、と。


「実弥さん」


私が箸を置いて口を開くと、実弥さんはチラリと目を向けてくる。


「昨日は無神けいな事きいてごめんなさい」

「だからお前が謝る必要ねぇって、」
「私」


実弥さんの言葉を遮るように言う。彼は思わずといった風にピタリと止めた。
私は彼の黒い瞳を真っ直ぐ見る。


「知ってると思うんですけど、私、お兄ちゃんがいたんです。お兄ちゃんと実弥さんが何となくにてて、だから下の兄弟がいるんだろうなって思いました」


だから昨日ああ訊いた。何となく、何気なく。
何も考えずに。


「鬼殺隊に入ってるくらいだから、家族とくらしてないくらいだから、当然亡くなってる可のう性も今思えばあったんです。でも私、何も考えてなかった」


実弥さんが怒ってない事くらい分かってる。
無神経だったかもしれないけれど、仕方ない部分があったって事も知ってる。

でも、それでも。


「だから、ごめんなさい」

「…………ククッ。フハハッ」


……思わず、ポカンとした。
笑ってた。実弥さんが。初めて見る。

本当に可笑しそうに実弥さんは笑う。涙まで浮かべて、心底面白そうに。
暫くして、目尻の涙を拭いながら私を見る。机の向こう側から手を伸ばしてきて、温かい手が私の頭の上にポンと置かれた。


「真面目だなァ、いいって言ってんのによォ」


それから、クシャクシャッと髪をかき混ぜるみたいに撫でられる。


「良いと思うぜ、そういうの。A」


初めて名前を呼ばれて、笑顔を向けられて、感情が目まぐるしく変わってゆく。そして顔に浮かんだのは、久し振りの心の底からの笑顔だった。
謝ってたのに、とは思う。それでも消せなかった。

嬉しくて、暖かくて。
春の真っ青な空に浮かぶ太陽みたいな笑顔をする実弥お兄ちゃん(・・・・・・・)に、私も笑った。

拾参話 風の呼吸→←拾壱話 或る朝



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瘉月(プロフ) - ゆずさん» 原作は悲しいこともありますが…それ以上に楽しいこともあるので、楽しみにしています! (2020年9月14日 21時) (レス) id: c566db76b6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆず(プロフ) - 瘉月さん» ありがとうございます! 早く原作に入りたくてウズウズしているので、時間を見つけて更新しようと思います。 (2020年9月14日 19時) (レス) id: d7263fa231 (このIDを非表示/違反報告)
瘉月(プロフ) - 本当に面白いです!毎回見てます。頑張ってくださいね! (2020年9月14日 17時) (レス) id: c566db76b6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆず | 作成日時:2020年8月8日 21時

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