佰拾話 逃避 ページ12
「……ありがとうございます、義勇さん。その鬼守って下さって」
Aは、冨岡さんや女の人と知り合いだったらしい。
女の人に説明を受けたAがそう言うと、女の人が目を丸くした。多分冨岡さんも。驚いた匂いがするから。
俺も少し驚いた。Aは鬼の事が大嫌いだから、いくら俺の妹だと言っても、斬ろうとする人から守った事にお礼を言うとは思わなかった。
女の人が戸惑った表情になる。
「それはどういう意味ですか? Aちゃんも鬼殺の邪魔を?」
「……私も斬りたいのはやまやまなんですけどね、事情がありまして」
困った様な顔でAが答える。「言っていいのかなぁ……」と呟いた。
ていうか、ずっと斬りたいの我慢してたのか……。
「まあ良いです。
…………俺の事か?
「はいっ!」
「坊やが庇っているのは鬼ですよ。危ないですから離れてください」
「ちっ……!! 違います、いや違わないけど……あの、妹なんです。俺の妹で、それで」
「まぁ、そうなのですか、可哀想に。では……」
女の人は同情した様な表情をしてから少し笑って、不思議な形の刀を握り直した。
「苦しまないよう、優しい毒で殺してあげましょうね」
ダメだ、と思った。
この人は本当に、何を言っても禰豆子を殺すのを止めない。
「……動けるか」
暫く黙っていた冨岡さんにそう話しかけられた。その無表情な顔を見上げる。
「動けなくても根性で動け。妹を連れて逃げろ。雲然、2人を頼む」
冨岡さんが、この女の人を足止めしてくれるという事だ。
「すみません、ありがとうございます!!」と言って、禰豆子を抱えて走り出す。冨岡さんに言われていたAも、女の人に申し訳なさそうな表情を向けてから俺の後に続く。
「これ、要るよね?」
「ああ! ありがとう!!」
途中で禰豆子を入れておく為の木箱を回収してくれたらしく、そう言われる。お礼を言った後、さっきの言葉の意味を訊くか迷ったけど、すぐにそれどころじゃなくなった。
身体中痛くて苦しい。話してる余裕が無い。
俺の横を走りながら心配そうに見ていたAは、ふと後ろに目を向けた。その表情に笑顔が浮かんで、どうしたのだろうと思う。
「カナヲ、久し振り」
「……A?」
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ゆず(プロフ) - りりりさん» ありがとうございます! 佳境に差し掛かっている掛け持ち作品がありペースは落ちていますが、そちらが終わり次第速くなると思います。 (2021年1月19日 18時) (レス) id: d7263fa231 (このIDを非表示/違反報告)
りりり(プロフ) - 面白く、一気に読ませていだきました!更新がとても楽しみです。 (2021年1月19日 17時) (レス) id: bc9653ee41 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆず | 作成日時:2021年1月1日 14時