強く優しくあれ【３】【佐野万次郎】

12 years later today ページ3

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でもこの彼だけはいつも俯いていて顔をしっかり見たことがない。






もっとニコニコしていたイメージが強かったけど


彼は多分、学生時代によくAちゃんを迎えに来てたあの彼氏。



そして



東京卍會の佐野万次郎。









東京卍會のことはニュースで見たことがある。


佐野万次郎の名前もニュースで聞いたことがある。


そしてよく彼と来ていたこめかみに龍の刺青の入った龍宮寺さんも今や死刑囚だとか。





昔何度かお話したことはある。


その時は見た目は怖いけど、Aちゃんが選んだ人だからいい人だってわかってたし



実際に見た目だけで中身は普通の男の子だったから





まさか、こんな集団になってるなんて思わなかったんだ。







最初は通報しようか迷った。


そんな人がうちの病院に出入りしてるなんてバレたら


様々な事情でセンシティブな人が多い病院はパニックに陥ってしまうかもしれない。







でも


Aちゃんは…



私の友達はあの人が来た日だけ


すごく穏やかな顔で眠るんだもん。









「Aちゃん、起きてる？」



A「あ、アキちゃん」






私は咎めることが出来ないよ。









たとえAちゃんを追い込んだのが彼だとしても


たとえ世間が彼を許さないとしても


Aちゃんを救えるのはきっと彼だけだから。





「それ、もらったの？」


A「……うん」





蜜柑を両手で優しく包み込みながら



虚ろな瞳で弱々しく、でも嬉しそうに微笑む彼女を見ていると


2人とも早く救われて、と切に願ってしまう。






……デスクにしまってある退職願が役に立つ日もきっと遠くないんだろうな…。









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