わたの原

言わない理由 ページ29

「……疲れた」


「お前体力ねェのにあんなはしゃいでたからだろィ」




散々泳いで散々遊んで、Aがついに砂浜に座り込む。


それを見下ろしながら、呆れて言った。




「久々過ぎてさぁ、ついつい」


「……お前明後日粛清あるって忘れてねーよな？」


「…………あ」


「忘れてたのかよ」




もしやと思って問えば、間の抜けた声が返ってきてヒクリと顔を引きつらせる。


昨日はあんなに楽しみにしてたクセに、どーゆー頭してんだコイツは。




「ちょっと総悟、今失礼な事考えたでしょ」


「いや？ 鶏か、なんて思ってねェぜ」


「鳥頭ってか？ ３歩歩いたら忘れるってか？ いっとくけど烏は賢いんだかんな、７歳の子供と同じくらいの知能持ってんだかんな」




俺を見上げて睨みを飛ばしてくる。


ここで更に揶揄うと後が面倒なので、「それより」と話題を変える事にした。




「どうする、もう帰るか？ だいぶ遊んだろィ」


「あー……うん、そうする？」




もう疲れて遊べそうにないからそうするか、と勢いよく立ち上がる。


俺を振り返ると淡く笑った。月みたいな笑顔で。




「ありがとね、総悟。１日付き合ってくれて」


「……いや、久し振りにいいモン見れたし」




別に、今の綺麗な笑顔が嫌いなワケじゃない。無理して取り繕われるより、よっぽど良い。


だけどやっぱり、俺は昔の太陽みたいな明るい笑顔が好きだ。




「じゃ、帰るか。まず着替えないと」


「面倒臭ェ」


「そのまま帰ったら？」


「逮捕されるわ」




時々思う。コイツは真選組を辞めた方が幸せになれるんじゃないかって。


だけどそれを伝えた事は無い。


そしてその理由はきっと、俺の勝手な想いから来てる。

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