【文スト】噂の最強異能力者は華麗にヨコハマを闊歩する

【if】もしも伯爵がポートマフィアに入ったら ページ50

長い廊下を、甲高いヒールの音が支配する
彼女が翻す黒の外套は、袖を通さず肩にかけられており、同じものは無い程の絶対的な存在感となっている。
そしてその傍らには、黒の執事服を纏った男が1人。



『平和なものだな、ベディヴィエール。ここは時計塔と違って、物知らずがいなくて心地が良い』
「えぇ。皆、伯爵(アール)の存在を正しく理解しているのです。誰も、その地位を奪おうとはしないでしょう」
『うむ。この私を地位から引きずり下ろそうとする、あの老木にはもう飽いた。彼処では、最早世界の均衡は保てまい』
「懸命なご判断で御座います、伯爵(アール)」



この女に何があったのか、今はもう誰も知らない

数ヶ月前、欧州の異能力者集団『時計塔の従騎士』が壊滅し、残党が残らず土に還った。
原因は1人の異能力者と、それに殉ずる13人の騎士である。
それまで時計塔が握っていた欧州の手網は全てその異能力者に引き継がれ、欧州はかつてない発展を遂げた。


そんな時計塔を壊滅させた女は、今はヨコハマのポートマフィアに身を置いている。
欧州の手網は信頼する13人のうちの何人かに任せて、彼女は欧州の手網を間接的に握っていながら、欧州に見切りをつけた


今彼女が愛でるのは、この海の美しい街
この街を守らんが為、夜の均衡を請け負うこの組織



『…………今度こそ、汚されてなるものか』
「………全ては、伯爵(アール)の御心のままに
世界は今も、伯爵(アール)のお力によって回っているのです」



彼女が見切りをつければ、世界などすぐに壊滅する程である。
それを彼女が欧州に見切りをつけた程度(・・・・・・・・・・・・)で収めているのは、一重にこのポートマフィアに所属する、1人の愛し子が理由である



「……………伯爵(アール)」



彼女の背後に近づくのは、件の愛し子。
咳き込む体をゆっくり歩ませ、愛しい彼女の元へ参らんとしている。



『………あぁ、私の愛し子。こちらへおいで』



彼女は腕を広げて、その腕に愛し子を抱きとめる
愛し子は、常に無表情を保っていた顔を僅かに緩ませ、その温もりに目を閉じる


その昔、このヨコハマの地で救った、我が子ほどに可愛がっている愛し子
今にも世界に見切りをつけそうな程に怒りを感じた彼女の、世界を裏切らぬ理由であり、唯一愛情を感じる存在



『龍之介、私はここだ。今日はどんなことをして過ごしたのだ？この私に聞かせておくれ』



そう言って彼女は、今日も愛し子の頬に親愛の口付けを落とした


ーー
続編できたけど更新はちょっと待ってください！

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