暴力とは、相手の癖を見抜くための手段。 ページ1
「私の性感は、相手をよく観察し、知るための手段、と言えるでしょう。私のマゾヒズムは窮地に立たされた状況でも正気を保つ為の重要な要素なのです」
「…はあん。だからてめえは、拳銃を突き付けられても相手の目を見ていられんだな」
男性は彼女の言葉を聞き流すようにしながら、ガチッ、と彼女の白い額に銃口を押し付ける。彼女は動揺することなく彼を見つめ、しかし抵抗も何もしなかった。
数瞬の沈黙。二十秒か、三十秒か。或いは、気付かなかっただけで一分を過ぎていたかもしれない。相変わらず無抵抗のまま彼を見つめていた彼女は、不意に場違いな笑みを浮かべる。
「うふ…まあ正直興奮しすぎて相手方を押し倒しちゃったりもしますが」
「…天然のド変態か」
「ふふふ。“私は、色んな貴方を見たいのです”。」
「…だから俺達を裏切ったのか」
「はい。私にはボスへの忠誠なんてありません。あるのは貴方達への“愛”と、貴方達をもっと知りたいという“好奇心”。ねえ、ジンさん。私の裏切りを知って、貴方は今…何を感じていますか?」
「……ふん。敢えて言うならこんな時でもブレないお前への“呆れ”と、裏切り者は絶対殺す、という“決意”だけだ」
「いいえ、いいえ。それは───貴方の建前です」
「黙れ!」
ジンは自らの握る拳銃のグリップで彼女の頭を強く殴りつける。彼女はそれを避けもせずされるまま、その、暴力を見逃さないと彼を見つめたまま受け入れた。
彼女は呻きもしない、喘ぎもしない。痛みに悲鳴を上げも、声を荒げる彼に怯える様子さえ見せない。殺されることへの、恐怖を感じていなかった。
「ああ…痛い…ねえ、ジンさん。本当は、安心したんでしょう」
「やめろ」
「安堵したときの貴方には、目を細める癖がある。私の裏切りの理由が愛故であることに…心底ほっとしたのでしょう?」
「うるさい」
「だって…貴方は私を
「黙れ、」
「貴方は、私を愛している」
沈黙。それは、彼の答えだった。
「ねえ、ジンさん」
「……」
「私を、撃ってください」
「………」
「脳天でも、心臓でもいいですよ。裏切り者は、殺さなければならないでしょう?」
「…お前は、残酷な女だな」
「愚かな女だとは、思いますよ。冷徹な貴方の震えた声を、愛しいと感じてしまうんです」
ジンはギリと歯を食いしばった。彼女に突き付けた銃口はブレることなく、引鉄が、引かれる。
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作者名:サーカス | 作成日時:2017年6月22日 18時