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耳にはそう届いて、脳に伝わった時にはもう歪んでいた。別れても情けないくらい引きずっている私には、その言葉は死ねと同義だ。話すときにたまに頭を掻く癖があった彼が、左手で頭を掻く。
その手の薬指に鎮座する何かがキラリと光り、さらに私に追いうちをかけた。


「お恥ずかしながらデキ婚なんだけどさ、最近籍入れて。やっぱ子供に悪影響かなって思ってやめたんだ」
「そう、なんだ」


こうして街で出会った拍子にもう一度この恋に火が灯ることを願って、別れた後に彼好みの女に近づいて。その行為が途轍もなく阿呆だったことに、ようやく気付いた。いや、初めから愚かさには気づいていた。それでも、僅かな可能性を信じていたかったのだ。一ミリも可能性なんて無かったのに。それを今、思い知らされた。


「Aは今何してんの?」
「何も変わらないよ、私は」
「そっか。俺、Aと付き合って、自分なのダメなところが分かったんだ。それを直せたから、家庭も持てたし充実してる。Aのおかげだよ、ありがとな!」


やめて、やめてよ。濁りのない笑みを向けられることが今は辛い。

見た目で変えられる範囲は変えた。だけど、それ以外は本当に何も変わらない。仕事も、住んでいる部屋も、家具の配置も、好きなアーティストも、あなたへの想いも。私はずっとずっと振られたあの日の中に閉じ込められている。だけど、あなたは違うみたい。

美化された記憶。美化した後は風化する。彼は私との綺麗な思い出以外はもう忘れていて、いずれその思い出すらも忘れていくのだ。

拳をぎゅっと握りしめて、手のひらに爪を立て自分を痛めつけていないと心が崩壊してしまいそう。この場で泣くなんて、絶対したくない。とっくに前を向いて歩いている彼には、私が三年前から一歩も進めていないということは感づかれたくなかった。

全くこっちを向いてない人には、この愚かさを知られたくない。弱い私の強がりだった。

・→←3.一方通行の灯火



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設定タグ:ハイキュー , HQ , 及川徹   
作品ジャンル:恋愛
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ぽん(元あお)(プロフ) - あべかわもちさん» もっちちゃんありがとう〜(*^◯^*)元々短編の予定が文章ばっかぎちぎちに詰まった感じになったので内容はパッパ進みました笑 こちらこそ、最初も最後もありがたい感想くれて特大感謝です! (2019年6月9日 16時) (レス) id: f02ef0b594 (このIDを非表示/違反報告)
あべかわもち(プロフ) - 完結おめでとう! 夢主ちゃんの心の機微が細かく描写されていて、とても読み応えがある作品だった! 最後の方の展開が意外すぎて、思わず息を飲みました。最後まで物語の進行がスピード感満載で、重すぎず軽すぎず後味まで大好きです。素敵な作品をありがとう! (2019年6月8日 18時) (レス) id: 9f7db0fc1d (このIDを非表示/違反報告)
ぽん(元あお)(プロフ) - オムオムレツレツさん» ありがとうございます!頑張ります! (2019年5月14日 19時) (レス) id: f02ef0b594 (このIDを非表示/違反報告)
オムオムレツレツ - 面白いです、、更新待ってます! (2019年5月12日 22時) (レス) id: e2c913aba7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぽん | 作成日時:2019年5月6日 9時

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