シガレット・シルエット【及川徹】

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「……そうだよ、感謝しなよ」
「これからも親友でいてね」


美形で、気が利く徹にときめかなかったことが一度もないと言えば嘘になる。愚痴を吐いたり相談したりするのはいつも徹で、心が弱っているときに近くにいたのが彼だったことが多いから、気持ちが揺れてしまうときも正直あった。

だけど、付き合うとなるとまた違うし、付き合うことで親友の関係は良くも悪くも崩れる。それが怖かった。私と徹はこのくらいの距離感が丁度いいんだろうなぁと思うと、自然と友情以上の感情は消えていた。そもそも女なんて選り取り見取りの徹がわざわざ私を彼女にするとは到底思えない。付き合うとなるとまた違う、それはあちら側も同じだと思う。

私たちは、色気のあるおしゃれなバーじゃなくて、熱気が籠っていて煙草とお酒臭い、焼き鳥が美味しいこの大衆居酒屋で飲み交わす関係が良く似合うのだ。性別の垣根を超えた親友ポジション、それがベスト。


その後、徹の近況を聞きつつ進んでいく酒に、気づけばかなり酔っぱらっていたみたいだった。途中から記憶がなく、気づいたら部屋のベッドの上で迎えていたのは朝を通り越して昼。ここまで運んでくれた人間は一人しかおらず、慌ててアプリのトーク画面を開いて、謝罪と感謝の言葉を送る。とりあえずお風呂に入ろうと、二日酔いでガンガン痛む頭を押さえながら浴室に向かった。

ミスコン優勝歴有りの美人受付嬢に猛アピールされているという徹のモテ自慢の話はかろうじて覚えているが、それ以降は一切思い出せない。



「いつまでも親友なんて御免だね。いい加減、俺の方向きなよ。バーカ」




だから、徹の発したこの言葉を思い出すどころか、記憶にも残っていなかった。

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