シガレット・シルエット【及川徹】

11.シガレット・シルエット ページ35

煙草の匂いが染みついてしまった髪の毛に、香り付きのスプレーをかけて臭いを消そうとするのは、煙草とスプレーの香りが混ざってかえって良くない。

髪を洗う暇がないけど匂いを落としたい時はウェットティッシュ等で髪を拭くのが良いというのは三年の喫煙経験で得た知識である。

さっと拭いて、軽く化粧を直した後、徹と共に再び外へ繰り出す。

結局部屋で告白をしてしまったため、水族館に行く理由は無くなってしまったが、折角だから行くことにした。


「……あ、ちょっと待って」


向かう途中、駅でバッグの中に入れっぱなしだった未使用の煙草の箱を取り出す。3年間ずっと吸ってきたKOOL。それを、ごみ箱に捨てた。


「いいの？禁煙難しいんじゃなかったっけ？」
「うん、でも止める」
「……そう。じゃあ口寂しいときは俺に言ってね」
「なんで？」
「よく言うじゃん、口寂しいときはキスすればいいって」
「おっさんくさいこと言わないで、ばか」
　

目の前にいない、元彼の見えない影を追って煙草で繋がろうとしていた。吸う物も吸い方も真似をして彼の輪郭をなぞった。

だけどそれはもう、必要ない。


醜くも貫いてきたひとつの恋を捨てて、新しい恋に向かっていく。そして、その恋を大切に、離さないでいこう。

徹の大きな手をそっと握った。





KOOL=keep only one love.
一つの恋を貫く その恋と決別して、新しい恋へ。



『シガレット・シルエット』 【ＥＮＤ】

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