シガレット・シルエット【及川徹】

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「……もしもし」
「もしもしA？ごめんな突然。今から会えないかな。昔よく行ってたファミレスで待ってる」


私が何かを返す前に切れる電話。掛け直しても出ず、個人チャットでメッセージを送る。しかし、「ごめん」「お願い」しか送ってこない状態になってしまった。

徹との約束まではまだ時間がある。だが、徹と会う前にほかの男、しかも元彼に会うことへの躊躇いは大きい。


「……っ、ごめん徹」


考えた結果、徹とのデート中に元彼のことでもやもやしたくないため、私のマンション近くのファミレスへと向かった。




「ちょっと……どうしたの」
「A」


ファミレスに着いて、元彼がいる席を探す。しかし彼の姿はなく、もしやと思い分煙で場所が分けられている喫煙席を探すとその姿を見つけた。灰皿には吸い殻がすでに三本、そして手には四本目の煙草。

せっかく朝シャンをして、高くて滅多に付けないフレグランスを付けたのに、これでは煙草の匂いまみれになってしまうじゃないか。座りたくなかったが、店員が私の分の水を持ってきてしまったため、仕方なく椅子に座った。


「……止めたんじゃなかったの」


いつぞやの徹と同じセリフを吐く。あんなに幸せそうな顔をして、禁煙したんだと言っていたくせに。


「結婚生活しんどくてさ、ストレスで」
「でも赤ちゃんに良くないでしょ、奥さんにも」


学生時代の友人で結婚、妊娠していく子たちもこの歳になればちらほらと出てくる。その子たちの話を聞くとやはり妊娠中の悪阻や身体の変化は辛いようで、それを旦那がどう支えるかが重要らしい。

付き合っていたころ家事がほとんどできなかった元彼がどう変わったのかは知らないが、本質が変わってなかったとしたら、奥さんの代わりに家事を行うことは彼にとっては苦痛。しかも上手くできないから、それどころではない奥さんに何か言われ、喧嘩……という状況なのかもしれない。あちらの家庭環境を一切知らないため、憶測でしかないが。

その弱音を吐くのに元カノの私を呼び出す神経には腹が立つ。

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