【名探偵コナン】 瘡蓋を剥がすな

27.今日も美味い ページ30

床に投げ出された鞄を拾い上げ、
彼のジャケットも一緒に受け取ると、
彼は爛々とした表情で私の肩を持って揺すった。

「二週間の休みを貰えたんだ。暫くは家にいれる」

「そうなんだ」

「どこか遠出でもするか？ ああ、新婚旅行がまだだったな。
海外は厳しいが、国内ならどこへでも行けるぞ」

珍しく盛り上がっている。
こんなに機嫌の良い零くんを見るのは初めてかもしれない。
小さな子どもみたいで可愛くて、眉が下がる。手の甲でさらりと彼の頬を撫でた。

「まあ、とりあえずご飯食べようよ。今から食べるところなの。お腹空いてる？」

「ああ、ペコペコだ」

「じゃあ手洗ってきて」

鼻歌でも歌い出しそうな勢いで洗面所に向かう背中を
見送って、彼の部屋に入る。
机とパソコン、隣に置かれた引き出しの上には数冊の本が平積みされていて、
その他クローゼットしかない簡易的な部屋は、
書斎に当たるだろう。

彼の仕事関連は全てこの部屋で完結しており、
私生活と仕事を分けたい彼の性格が全面に出ている。
事実、クローゼットの中にはスーツしか入っておらず、
私服は私と共同の部屋に並んでいる。

この部屋について私が言及することはない。
私が部屋に入る時はこうしてジャケットを掛けて、
荷物を置く時だけだ。
殺風景だからか、北向きの部屋だからか、
何だかこの部屋は冷たい。
そそくさとダイニングへ向かう。

彼は既に席に座っていた。
待っててくれていたのか、まだ手はつけていない。

「ちょっと冷めちゃったかな。温める？」

「いや、十分温かい。食べよう」

「よし、それじゃあ」

「「いただきます」」

手を合わせて声を揃える。
かちゃかちゃ、食器の音が鳴る。

「そういえば二人で食べるの、最初の朝以来だね」

「すまない。寂しい思いをさせた」

「いいよ。これから暫くは一緒でしょ」

「それと、いつもご飯を置いておいてくれてありがとう。
助かるよ」

今日も美味いな。と彼は笑った。

寂しくなかった訳がない。
本当は文句の一つでも言ってやろうかと思った。
彼を気遣って言えなかったけど。

でも、こうして彼が目の前で笑っていれば、
何でも許してしまうのは、私の甘さ、なんだろうか。

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