【名探偵コナン】 瘡蓋を剥がすな

25.せーんせっ ページ28

昼休みになった。
生徒は号令が終わると、途端に散り散りになり、走って教室を出たり、お喋りに興じたり、
この世代は何をしていても眩しく見える。

「せーんせっ」

にまにまと得意げな笑顔を浮かべて、
ジリリ、と近づいてくる二人に、思わず半端下がった。

「ど、どうしたの？ 蘭ちゃん、園子ちゃん」

「惚けてもダメよ、Aちゃん！
まさか私が見逃すと思ってるの？その、薬指を！」

まるで犯人を追い詰めるみたいに、
園子ちゃんが私の手を人差し指で指した。
私は視線を辿り、ああ、これね、と静かに零した。

まだ夢のようだ。
普通に過ごしているつもりでも、
足取りは軽く、ふわふわと宙に浮いているようだ。
そう、間違いなく私は浮かれている。

「久しぶりに会った恋人に渡されたの。
無理矢理婚姻届書かされてさ」

「え、それ大丈夫なんですか」

「やばいよね。法的に」

「そうじゃなくて。先生の気持ちの方は」

「いやあ、ね。七年放っとかれてたんだけど、
私、まだ彼のこと好きだったし」

「嘘、七年！ 考えられない！！」

目を丸くして、女を待たせるなんて最低な男ね、と反応する園子ちゃんに対し、
蘭ちゃんの表情は影が差していた。

「辛くなかったんですか？」

言われて、はっ、とした。
休学中の工藤新一くんと、蘭ちゃんは幼馴染で、
新一くんが遠くにいる今、蘭ちゃんは彼を心配しているという。
彼女に掛けられる言葉などあるだろうか。

「彼、迎えに来るって言ったの。
その言葉を信じていたから」

瞼の裏を記憶が掠めた。今なら笑える。
ゆっくり微笑んで、

「馬鹿みたいでしょう？
それでも私、あの人が好きだったから。
待つことしか出来なかったの」

「大人ねぇ」

「素敵な話ですね！」

いやぁ、照れるね。と、
赤くなっていく頬を掻く。指輪が静かに光った。

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