【名探偵コナン】 瘡蓋を剥がすな

18.釘付けだったよ ページ21

「ゼロ！」

聞き慣れた声に振り返る。
幼馴染の景光だった。おう、と片手を上げる。

「聞いたぜ、ゼロ。首席だって？」

「まあ、当然だろう」

「言うと思った。それより、彼女出来たか？」

横並びで歩きながら会話を続ける。
彼の明るくひょうきんなところは相変わらずで、
隣の景光に呆れた視線を送る。

「そればっかりだな。出来てないよ」

「はあ？！ それはないだろー」

お前ほどの男ならよぉ、と強引に肩を組まれる。
もちろん女性からの視線を大いに受けていることは自覚しているが、
それが恋愛に発展することはなかった。

「あるんだよ、それが」

「じゃあ、気になる奴は？
あの子可愛いよな。ほら、藤原沙羅ちゃん。
あとは、高橋奈々ちゃんとかさ。
セクシー系で言うと桐崎百合ちゃんとかも人気だよなあ」

「俺は好みじゃないな。性格悪そう」

「そうかぁ？ じゃあ、ゼロは？」

「俺は……」

ふと、誰かと目があった。

手入れの行き届いた艶のある黒髪に
ゆらゆらと不安定なのに、意思の強い印象的な瞳。

目が合ってから数秒。彼女は、ふっと優しく微笑んだ。
どくり、と心臓が動く。
耳元で鼓動がうるさく高鳴っている。

釘付け。
無意識だが、形容するならその言葉だろう。

先程名前が挙がった人達には劣るが、
美しさよりも、惹かれる魅力が彼女にあった。

名前も知らない。たまたま、目が合っただけ。

彼女は、俺じゃない誰かに笑いかけたんだろう。

分かっている。でも。

目が、心臓が、俺の全てが、彼女に引き寄せられた。

言葉に出来ない感覚。

美人だとか、可愛いだとか、
そんな簡単な言葉で言い表せるものじゃなくて、

俺には、この人しかいない。

直感が、そう叫んだ。

「……なあ、あれ誰？」

「え？ えーっと、誰だっけ。
ああ、そうだ。咲本。咲本A。外国語学部の」

無駄に広い交友関係を持っている景光は、
他の学部の彼女のことも知っているらしい。

「咲本……A……」

「目立たねえけど、実は可愛いよな。
狙うならあーいう女子って感じ。
何？ もしかしてタイプ？」

「……さあな」

色恋沙汰に意欲がなかったからか、
こんなざわついた気持ちになるのは初めてだ。

咲本A。外国語学部か。

彼女に興味を抱いた俺は、さっそく歩き出した。
後ろでは、景光がちょっ、おいてくなよーと文句を垂れていた。

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