【名探偵コナン】 瘡蓋を剥がすな

17.普通の人 ページ20

咲本 Aという女性は、
驚くほど普通の人間だった。

年齢は降谷さんと同じ、二十九歳。職業は教師。
実家は郊外にあり、父親はサラリーマン、
母親は看護師として今も元気に働いている。

学歴も職歴も、何度見直そうと目立ったところはなく、
秀でた特技がある訳でもない。

容姿も、優れているというよりは、
優しそうで可愛らしい雰囲気だ。

女性としての魅力は分からないでもないが、
あの降谷さんが彼女にそこまで入れ込むのは、
いささか意外である。

降谷さんなら、他にも相手はいるだろうに。

「降谷さん、例の身辺調査が完了しました」

「嗚呼、アイツの。ありがとう」

降谷さんは、俺が手渡した紙束をパラパラと捲ると
デスクに放った。
降谷さんのデスクには既に、
たくさんの仕事が積まれていて、
彼女の資料もその中の一つとして積まれた。

「何故、Aなのか」

目を丸くして降谷さんを見る。
降谷さんは自身の顔を人差し指で指しながら、

「顔に書いてあったぞ。
それで公安が務まるのか、風見」

「すみません」

あはは、と軽快に笑った降谷さんは、
途中まで飲んでいた缶コーヒーを再び口に含んだ。

「確かに、Aより美人な女性なんて山程いるし、
そんな美女と付き合えるスペックを俺は持ち合わせていると思う」

なんてな、と茶目っ気たっぷりのウインクを飛ばされる。
女性だったら、イチコロ、なんだろうウインクは、
相変わらず完璧なものだった。

「……本当、なんでAだったんだろうな」

呟くような声は、開いていた窓から漏れ出して、
散っていく桜とともに風に運ばれた。

18.釘付けだったよ→←16.元気にしてるかな

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す