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序章 8 ページ8

「あ、跡部さん、あの子には近づかない方がいいよ。ほら、机見て?」



女子生徒に言われるがまま
私の机の惨状を目の当たりにした景吾は、
遠巻きに見ながら好奇の眼差しを送っているクラスメイトを一瞥し、
自分を引き止めた女子生徒の腕を乱暴に振り払った。



「なんで...?跡部さんには、あんないじめられっ子似合わないよ!
私たちと前みたいに話そう?」



女子特有のねっとりとした口調で話しかける彼女を、
景吾は今まで見たこともないほど眉間に青筋を立てて睨んだ。

横顔だけでわかった。
鬼の形相とはこういうことを言うんだろう。

ビクリと女子生徒の肩が揺れる。



「は?何ふざけたこと言ってやがる。
俺はお前みたいなアバズレ女、見たことも聞いたこともねぇよ。
金輪際、俺と香燐に近づくな。」



景吾に睨まれた彼女は、恐怖からか絶望からか顔面蒼白になっていた。
全身をわななかせ、脱力したように座り込む。無様だった。



呆然としているクラスメイトへ舌打ちを与えた景吾は、
私の隣に身をかがめた。


何も言わず、一緒に机に綴られた罵倒の言葉を消してくれる。


私は少しも傷つきはしなかったのに、
景吾は誰よりも切なそうに、端正な美貌を歪めていた。



「跡部君...ごめん、ありがとう。」

「景吾。」

「え?」

「俺は、これからお前のことを香燐と呼ぶことにした。
だから、お前も俺のことは景吾でいい。」



鉄の壁すら射抜きそうな麗しい琥珀色の視線が、
私に注がれている。


澄みきった彼の瞳は、
いちど捕まってしまえば容易に逃げ出すことができない。



「景吾......くん。」

「景吾だ。香燐。」

「っ....けい、ご。」

「もう一回。」

「景吾!」



半分意地になって言うと、景吾は満足気に笑いながら
「よくできた」と頭を撫でてくれた。



その頭に置かれた掌の温もりを、私は一生忘れないと思う。

跡部景吾という男→←序章 7



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√ルート(プロフ) - 返信が遅れてしまい、申し訳ありません!!そんなに気に入って頂けるなんて、悩みながら書いた甲斐がありました...(笑)とても励みになります(≧▽≦) (2018年8月20日 2時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
ユッキー(プロフ) - このお話、大好きです!文才力すごいですね! (2018年8月16日 3時) (レス) id: 127851c6f5 (このIDを非表示/違反報告)
√ルート(プロフ) - くしぇるさん» 処女作でそんなことを言って頂けるなんて感謝感激雨あられです!新作でお会いできたときには、応援して下さると嬉しいです! (2018年4月28日 11時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
くしぇる(プロフ) - めっちゃ面白かったです!! (2018年4月26日 21時) (レス) id: bc0907c9ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:√ルート | 作成日時:2018年3月27日 23時

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