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終章 8 ページ31

唇が離れ、一呼吸おく。
まだ、少し乾燥した唇の感触と温かさが残っていた。



「...私、まだ返事してないわ。」

「無粋なこと言わんとき。
俺が一目惚れした恋が叶うんやから。」



見上げる瞳はどこか自信気で、微かな熱情が浮かんでいた。



「一目惚れって...顔に?」

「いいや。
さっきの背負い投げと、髪を切り落として啖呵きったところやな。」

「変わったご趣味で。」

「そうか。」



少しだけ吹いた夏風が2人の髪を揺らす。

早鐘を打っていた私の心臓が、
だんだんと、ゆっくり、風に吹かれて、凪いでいく。



「...そんで、返事は?俺、気は長い方やないで。」

「喜んで、だけど。」

「だけど、なんや?」


「私が侑士君の女になるってことは、侑士君も私の男になるのよね?」



侑士君が眼鏡越しに瞳孔を開く。



「もちろんや。」


侑士君は傑作だと言わんばかりの笑みを浮かべ、頷いた。







「私、侑士君が好き。」







侑士君に伝えるように、
自分の気持ちを空に投げかけるように。

今なら何でも言えてしまえそう。



「最高に可愛いけど、あと一歩やな。」



無言で首を傾げると、侑士君も言葉を続ける。



「侑士、呼び捨てで呼んでや。」



侑士君の声色と少し口角を上げた表情に、
とある記憶がブラウザバックする。

初めて会った時にも言われたんだ、そんな台詞。


───────あの時は、できなかった。


自分の気持ちが理解しきれなかった頃は、
気恥ずかしくて、緊張して。

呼び捨てなんてしちゃったら、
目すら合わせられなくなると思ったから。

いま思い返せば、
私は自分の気持ちに一番振り回されていたかもしれない。



「侑士君。」



私の返答に、侑士君が隠すことなく眉を寄せる。

想像通りの反応を確認して彼から抗議の声を聞く前に、
もう一度口を開いた。






「今ので呼び納め。私、侑士が好き。」

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√ルート(プロフ) - 返信が遅れてしまい、申し訳ありません!!そんなに気に入って頂けるなんて、悩みながら書いた甲斐がありました...(笑)とても励みになります(≧▽≦) (2018年8月20日 2時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
ユッキー(プロフ) - このお話、大好きです!文才力すごいですね! (2018年8月16日 3時) (レス) id: 127851c6f5 (このIDを非表示/違反報告)
√ルート(プロフ) - くしぇるさん» 処女作でそんなことを言って頂けるなんて感謝感激雨あられです!新作でお会いできたときには、応援して下さると嬉しいです! (2018年4月28日 11時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
くしぇる(プロフ) - めっちゃ面白かったです!! (2018年4月26日 21時) (レス) id: bc0907c9ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:√ルート | 作成日時:2018年3月27日 23時

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