轟焦凍2 ページ41
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焦凍はAが自分の事情を知っているのを、てっきり出久がAに打ち明けたものだと思ったが、憶測は外れたようだった。
Aは静かに首を横に振る。
『さっき、偶然立ち聞きしたの。焦凍くんとお父さんが言い争ってるとこ。でも、それ以前にずっと前から不思議に思ってた。焦凍くんがなんで左を使わないのか』
焦凍は舌打ちをして、観客席のどこかから自分を見ているのだろう父親を忌々しく思った。
やつが試合前につっかかって来たりなどせねば、こうしてクラスメイトに探りを入れられるような面倒ごとも起きなかったと苛ついているのである。
「…で？なんだよ。俺の秘密を知りました、それネタに俺のこと揺さぶろうってか？」
自嘲気味に焦凍が笑う。
「残念だったな。生憎、クソ親父との関係を今更どうこう言われようと何とも思わねえよ。親父が憎い。親父から受け継いだ個性が憎い。だから、左は使わない。これで満足か？」
焦凍は早く話を終わらせたいようだった。
Aと話していると調子が狂う。
静かだった水面に波紋が広がるように―――揺るがないはずの精神に、直に触れられるような感覚に陥る。
『…寂しかったよね』
ぽつりとAが言った。
『自分の存在も、心の叫びも、全部無視されて寂しかったよね。だから憎むしかなかったよね。じゃないと辛いから。認めると、自分の心が壊れちゃうから。だから嫌いになるしかなかったんだよね。遠ざけるしか、なかったんだよね』
「……さっきからごちゃごちゃうるせえな。別に俺はあんなやつが俺をどう思おうが―――！」
『私、ちゃんと見るから。焦凍くんのこと見てるから。エンデヴァーの息子でも将来有望なヒーロー科の優等生でもない、ありのままの焦凍くんのこと見てるから』
「……！」
控えめにAが笑った。
優しい笑顔だった。
本当は、ありのままの自分を見て欲しい。
自分が自分であるだけで受け入れて欲しい。
認めて欲しい。存在を、肯定して欲しい。
世界に一人だけのお父さんとお母さん。
僕の向こうに違うものを見ないで。
僕のことを怖がらないで。
―――愛して。
幼き日の自分の泣き声が不意に脳裏によみがえり、焦凍はめまいに襲われた。
これ以上、乱すなと思った。
俺に近寄るな。
理解しようとするな。
これ以上俺の心に触れるな。
「…何だっていい。俺は勝つ」
『…私だって、譲らないから』
試合開始の合図が空高く鳴り響いた。
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スカイ(プロフ) - コメ返してくれてありがとうございました！めっちゃ面白い...最高です！今後に期待します！ (2018年6月19日 20時) (
レス) id: fe3517b453 (このIDを非表示/違反報告)
卯月(プロフ) - スカイさん» 感想ありがとうございます！勢いで書きなぐっておりますが、楽しんでいただけたようで嬉しいです＾＾ (2018年6月17日 23時) (レス) id: 23b7097a95 (このIDを非表示/違反報告)
スカイ(プロフ) - 本当に好みのシチュです！完結まで絶対見ますねー (2018年6月17日 19時) (レス) id: fe3517b453 (このIDを非表示/違反報告)
スカイ - 面白いです！頑張ってくださいね！ (2018年6月17日 16時) (レス) id: fe3517b453 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：卯月 | 作成日時：2018年6月13日 14時
