あっしゅぼーい

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Ｆ side


接客業をしていると、何十、何百という人と会話をしていく中で、感情を表情から読み取れることも少なくない




鏡越しに人によって色んな反応が見られる
自分との会話に興味がなかったり、共感していなかったり、話す気分じゃなかったり、逆に自分のことを話したくて仕方なかったり…
自分に、好意を寄せてくれてたり……




店長になって間もない頃その人はやってきた
予約の時間が近くなると俺は入口付近で待つようにしている

たくさんある店の中でうちの店を選んだ人をきちんと出迎えたいから

誰しも美容院に来る時は、今日は思い通りになるだろうかとか、腕がいいスタイリストだろうかとか不安を抱えているんじゃないだろうか
初めての来店なら尚更だ

そんな不安を少しでも拭いたいし、気持ちよく帰っていただくためにもまずはファーストインプレッションは特に大切にしていた




いつも通り入口で待ち、ふと曲がり角から来る小柄な男性が目に付いた
携帯を見ながらキョロキョロとしているあたりうちの店を探しているのかな
店の看板を見つけると、おっ！という顔になった
間違いない、北山様だ




こちら側の第一印象は表情がくるくる変わる人
うちの店に来たきっかけは前に通っていた美容院のスタッフの態度が悪かったらしい

同業としては聞き捨てならない話だったし、思わず自分の店の方針なんかを話してしまった
はっとなり、こんな話聞いてもつまらないよなと思い伺うと、北山さんはもっと聞きたい、これはどう考えてますか？こういう時どうしますか？と本当に興味を持って聞いてきてくれた




2度目の来店でまた店に向かってくる北山さんを見つける
2度目なのにまたキョロキョロしてて、店に入る寸前でこちらをチラッ確認してきた




「いらっしゃいませ」




「こんちわっ…」




「ふふっ、道、迷いそうでした？」




「え！いや、大丈夫…でした」




基本的にお客様とは一定の距離を保つ
人によって距離を変えるのは疲れてしまうから…
でも来店を重ねる毎に北山さんとの距離が何とも言えない距離になっていく
っていうのは多分、自分が近付きたかったんだと思う




そう、お客様に恋をしてしまったんだ




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