あっしゅぼーい

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「すいません、いつもなんか慌ただしくて」




「いえいえ、忙しいのはいい事じゃないですか」




たくさんの人の髪に触れる手が今は俺の肩をほぐすためだけに動いてると思うと、胸の真ん中がズキズキして好きが爆発しそうになる




「出来れば北山さんは全部俺がやりたいんですけどねぇ」




「俺ばっかそんな贅沢できないですよ、店長さん」




「あ、なんか嫌味だなぁ、北山さん最近なんか冷たくないです？」




「そんなことないですよ！今日も大人気の藤ヶ谷さんに切ってもらえて嬉しいです」




「ほら、そーいうとこ！」




あははと笑い合う店内にはちょうど2人だけ
他のスタッフはぽっかり空いたこの時間に昼食を取ったりしているようだった




あぁ…このまま時間が止まればいいのに…




本当は俺だってずっと藤ヶ谷さんにやってもらいたい
最近は機会が減ったけど藤ヶ谷さんの髪の洗い方がうますぎてそれも癖になっていた
少し丸い指先と程よい力加減がどストライクでいつも終盤は意識を飛ばしてしまい、北山さん、と起こされることも少なくなかった
それに加えてこのビジュアルだからあっという間に口コミでお客さんは増えてしまったのだ…




少し遠くなってしまった気がして
カットを始めた藤ヶ谷さんをじっと見つめる




「なんか変です？」




「へ？」




「北山さんがそんな見てくるの珍しいから」




「え、あ…そう？」




急に恥ずかしくなって目の前にあった雑誌を無造作に開き特に興味もないお出かけスポットのページを見つめた




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