美ら海の美ら人 (ページ34)

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優しく手を繋がれたままどこかを目指す照史さん。

「車やろ？どこ？」

わからずに歩いてたんだと思うと、こんな状況なのに笑えてきてしまう。

「ふふ…逆方向です。」

「なんやねん、はよ言うてや。」

そう言うと硬かった雰囲気は柔らかくなって、それでもわたしの手を離さずに歩いていく。

駐車場までの道のりを歩く。

「待って、毎日こんな深夜にこんな真っ暗な道歩いてるん？危ないって。」

照史さんの彼女さんは毎日こんな心配されるんだろうな。

幸せなんだろうな。

そんなことを思って勝手に落ち込む。

「毎日だし、わたしのことなんて襲うバカいないので。」

そう答えるとアホか、と頭を叩くフリ。

「どんな女の子でも暗いとこ歩いとったら襲われかねないんやで？

とくにAちゃんみたいに可愛くて若い女の子やったらなおさら！」

もー！とほっぺを膨らませる姿に可愛いなと思ってしまう。

「ありがとうございます。気をつけますね？」

そんな話をしていると駐車場に着く。

もう他にほとんど車はなくて、すぐに車の居場所がわかった。

すると、照史さんは慣れたように運転席に触りどうぞとわざとらしい顔で助手席のドアを開ける。

「ほんまは迎えに来たかってんけどさ、

Aちゃんも車やんなーって思ったから。

雰囲気だけでもさせて」

そう言ってぺろっと舌をのぞかせる。

お茶目な姿も可愛いし、助手席にエスコートする姿はカッコいい。

もう。感情ぐちゃぐちゃです、照史さん……

そのまま車はどこかへ向かう。

着いたのは看板が仕舞われた居酒屋福ちゃん。

「福ちゃんおまたせ～」

そう言いながら閉店したであろう店にずかずかと入る。

いいのか？

「お！Aちゃーん！待ってたよぉ～」

「いや、俺は！？俺は無視！？」

そう言いながら騒ぐ照史さんを見て笑う福ちゃんさん。

状況が読めないわたしに福ちゃんさんの奥さんが近くにきて教えてくれた。

「桐ちゃんね？Aちゃんと、ゆーっくり話したいって。

だから、今日は貸切にしたんさ。」

だからAちゃんもたくさん楽しんでってね

と優しく背中をさすられる。

全てを把握したような優しさに涙が出そうだった。